70 マイスとファム
「え? ……ファム?」
俺は思わず声を漏らす。
林の中にいたのはファム。
彼女達はここで待ち合わせをしていたらしい。
そもそもマイスとファムってどういう関係なんだろ。ただの顔見知りじゃなかったのか?
「お待たせして申し訳ありません」
マイスは深々と頭を下げる。
「いえ、私も今来たところですので。
さて……早速、本題に入らせていただきます。
ソフィアさんのことですが……」
「彼女がウィルフレッドと関係を持つよう、
アルベルトさまに言われたのは本当でしょうか?」
マイスが食い気味に尋ねる。
「ええ、確かです」
「ああ……そんな!」
「そう悲観なさらなくても大丈夫ですよ。
まだ時間はあります」
「その前になんとしても彼女を……」
マイスは悔し気に親指の爪を噛んだ。
「彼女を学園から連れ出す算段は付いているのですか?」
ファムが尋ねる。
「ええ、一応は……でもまだ準備の段階ですわ」
「では一刻も早く計画を実行に移すべきでしょう。
早くしたほうがいいですよ。
でないと……彼がソフィアさんを……」
「そんなこと……絶対に……っ!」
ぎりっと歯を食いしばるマイス。
まるで別人のように恐ろしい顔つきになっている。
もしかして……ソフィアを助けようとしているのか?
この様子だと彼女が置かれた状況についても詳しく知っているはず。
「例の計画については?」
「詳しいことは分かりませんが、
アルベルトさまから聞いた話によると……。
一年以内か……早ければ半年」
「っ! あの外道どもっ! 絶対に許せない!」
一層、顔をこわばらせるマイス。
まるで修羅のようだ。
例の計画とは人間爆弾の件だろう。
二人は以前から協力関係を築いていたらしい。マイスは何をしても彼女を救うつもりでいるようだ。
もともと評価の高さが気にはなっていたが、まさかここまで入れ込んでいたとはな。さすがに予想外。
彼女がソフィアに対して強い思いを抱いている理由が分からない。プロフィールにも詳しく書いてなかったし。
ううむ……いったい過去に何があったんだろう?
「そう感情的にならないでください。
怒りに身を任せれば、必ず破滅します。
本懐も果たせずに終わるでしょう」
「でっ……ですが……」
「私の言うことが聞けないのですか、マイス」
「うっ……申し訳ありません」
うん?
どうも変だな。
マイスはファムに逆らえないらしい。
弱みでも握られているのか?
「いいですか、マイス。
よく聞いてください。
ソフィアさんを救えるのはアナタしかいません。
ウィルフレッドを騙るあの偽物に、
何かできると思いますか?」
「いえ……思いません」
「ならば、答えは一つでしょう。
最後まで冷静に状況を見定め、
ソフィアさんを絶望の淵から救い出すのです。
何があっても感情に負けてはなりません」
「分かりました……ファムさま。
いえ……師匠」
え? 師匠?
二人って師弟関係だったの?
というかマイスは俺が偽物だと知っていた?
……まじなの?
「あなたにそう呼ばれるのは久しぶりですね」
「ええ……しばらく距離を置いていたので……」
「でしょうね、何せあなたは……」
ファムはそっとマイスのほほに手を当てる。
「あなたは身体と共に心も大人になってしまった。
もう可愛らしく私とじゃれ合ってくれない。
残念で仕方ありません」
「それは……あなたが私を……」
「ええ、ずっと待っていました。
報酬が支払われる時を。
アナタは十分に大きく育てくれた。
ここも……」
ファムはマイスのほほから手を放し、たわわな胸へと伸ばす。
そして……。
「こんなに大きくなって……!」
「いやぁ! やめてくださいっ!」
なまめかしい手つきで乳房に触れるファム。
マイスは顔を赤らめて拒絶の意思を示し、手を払いのけた。
「そう邪険にしないでください。
契約の内容をお忘れですか?」
「たっ……確かに私は……。
ファムさまと契りを交わす約束をしました。
でもそれは……」
「ええ、ソフィアさんを助けてから。
でも私はもう我慢の限界なのです。
少しくらい、遊んでも構わないでしょう?」
「私を物のように扱わないでください」
マイスは強めの口調で抗議するが、ファムはそれを見てニヤニヤ笑うだけ。
「物のようにだなんて心外ですね。
私はずっとあなたを大切にしてきました。
なによりも、なによりも……」
再びマイスのほほに手を当て、無理やり自分の方を向かせるファム。
そのまま唇を……。




