7 殴り合うヒロインたち
「えっと……ソフィア?」
「ひっ……酷いです! 浮気です、浮気!
ウィルさんのばかああああああ!」
彼女は叫びながら猛ダッシュで突進してくる。
この流れ……ドロップキック!
なんとなく次の展開を予見した俺だが、まったく予想していなかったことが起きる。
どんっ。
マイスが俺を突き飛ばしたのだ。
ソフィアは俺ではなくマイスの方へと駆け寄っていく。最初から彼女が狙いだったらしい。
「死ねやあああああああああ!」
「こいやあああああああああ!」
二人とも乙女ならざる声を上げて戦闘モードに突入。
マイスは両足を大きく広げて踏ん張り攻撃に備える。
まるで力士のような力強さを感じさせる。
一方、ソフィアは助走をつけて飛び上がり、予想した通りドロップキックを仕掛けた。
ソフィアが宙に舞うと、両足が突然赤く光り始め炎をまとう。対するマイスは全身が紫色に光り始め、あたりに電撃のようなエネルギーがほとばしる。
ずがああああああああああん!
「うわあああああああああ!」
マイスのドロップキックが直撃するや否や大爆発。
爆風で俺は吹っ飛ばされてしまった。
「いたっ……くない?」
吹き飛ばされた俺は壁に激突……かと思いきや。
なにかやわらかいものに受け止められた。
「お怪我はありませんか?」
「え? ファムさん? どもっす」
ファムが俺を受け止めてくれたようだ。
やわらかい感触は彼女のおっぱいだった。
「えっと……二人は?」
「ご覧ください。両者ともに無傷です」
ファムが指さしたその方向には、距離をとってにらみ合う二人の姿が。
「ふふふ……相変わらず乱暴ですこと」
「そっちこそ、憎たらしいほどに頑丈だよね」
二人に目立った外傷はない。
それどころか普通にピンピンしている。
……何者なんだ、こいつら。
しかし、二人の服はボロボロ。
ソフィアが着ていたワンピースは半分以上が燃え尽き、黒焦げになって穴だらけ。下半分はパンツが露出するほど短くなっている。
マイスのドレスも上半身がすっ飛んで消失。下着に覆われた乳房がむき出しになっている。
二人はそんな自分の姿など気にも留めず、互いににらみ合いを続けている。次に相手が何をするのか一挙手一投足に注意を配り、他のことなど全く気にならないようだ。
「さすがですね、二人とも。
英雄学校を代表するだけのことはある」
俺を抱きかかえたファムが無表情で言う。
俺は彼女の顔を見上げながら尋ねる。
「えっと……英雄学校?」
「お二人が通っておられる学校です。
文字通り、英雄を育てるための教育をしています」
「俺もその学校に?」
「いえ、ウィルさまは落ちこぼれだったので、
普通に入学試験に落ちてしまいました」
……そう言えばそうだったな。
そんなことが日記に書いてあったような……。
「優秀なスキルを持った者たちが国中から集められ、
一人前の戦士になるよう教育されています。
彼女達はその中でも群を抜いて優秀な……」
「あの……そんな二人をここで戦わせてしまって、
大丈夫なんでしょうか?」
「全然大丈夫ではないですけど、別に構わないでしょう。
どうせこの屋敷は他人の手に渡るわけですから……」
「…………」
この人、いい性格してるな。
しかし……このまま二人が戦い続けたらどうなるんだ?
俺には全く想像できない。