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66 ハッピーエンドを迎えない限り

 主人公失格の烙印を押された“桧山ひやま広翔ひろと”くん。

 戦うことを放棄した彼は、葛藤するまもなく醜い豚に姿を変えられる。


 神様はどうして彼を物語の主人公として認めなかったのか。

 俺はそこがとっても引っかかっている。


 というか……。


「なぁ、どうして俺が次の主人公だと思うんだ?」


 俺には分からない。

 ただただ疑問だ。


 ウィルフレッドには桧山のような戦うための能力がない。

 ストックしておけるステータスの数値だって平凡だし、大して強くないのだ。


 そんな俺が主人公?

 笑わせてくれるぜ。


「戦うことを放棄した奴が主人公失格なら、

 俺なんて最初から不適格だよ。

 なんで俺が主人公なんだ?」

「さぁな、知らねーよ。

 異世界から転生してきた奴が主人公に選ばれるんだ。

 この世界はそう言う世界だ」

「ふぅん……」


 よく分からないな。

 そう言う世界だから納得しろって言われても、素直にハイそうですかと言えるはずがない。


 桧山は主人公が異世界から転生してくる存在だと言っていた。

 ならば……。


「お前の他にも転生者が?」

「ああ、いたよ。何人か。

 でも……あいつらは次々に降りた。

 主人公にはなれないってな。

 んで、俺みたいに動物に変えられた」

「そうか……可哀そうに。

 彼らは今どこに?」

「隠れ里って聞いたことあるか?」


 焼きそばパンを作ってるところか。

 つまりあれは……。


「お前みたいに動物に変えられた連中が、

 あの焼きそばパンを作ってるのか?」

「他にも、あんパンとか、食パンとか、

 色々作ってるぞ」

「味噌とか醤油とか米は?」

「気候的な関係で無理らしい」

「なんでだよ!」


 俺は思わず突っ込んでしまった。


「なんであんな再現度高い焼きそばパンが作れるのに!

 味噌と醤油と米は無理なんだよ⁉

 故郷の味が恋しくてしかたねぇんだよ!

 なんとかしろよ、この豚ぁ!」

「いや……俺に言われても……」


 マジでクソだな、この世界ゲーム

 肝心なところで都合が悪い。


 焼きそばパンは嫌いなわけじゃないし、あんパンや食パンもあると聞いてちょっと期待もしてる。

 でも……それだけじゃぁ、足りないんだよ!


「まぁ、いいよ別に。

 んで……その隠れ里ってどこにあるんだ?」

「知らない」

「は?」

「俺は連中からハブられてたから知らない。

 気にしたこともねぇよ」

「…………」


 コイツ、嫌われてたのか?


 まぁ、突然なれなれしく話しかけてくるような奴だ。厄介者扱いされても不思議ではない。

 もしかして、チートスキルでイキり倒してたら、みんなから嫌われて一人で戦ってたとか?

 ……あり得るなぁ。


「そうか……なら隠れ里についてはいいや。

 他にも聞きたいことがあるんだが、質問いいか?」

「別にいいぞ。

 お前がもし主人公なら、物語を完結させてくれ。

 俺が元の人間に戻れるかもしれないからな」

「…………」


 物語を完結させる?

 何がどうしたら完結したことになるんだろうな。

 ……まぁ、このことは置いておこう。


 俺が聞きたいのは……。


「お前、メニューアイコンって開けるか?」

「昔は開けたよ」

「今は?」

「ステータスすら開けない」


 そりゃぁダメだな。

 なんにもできねぇじゃん。


「つまり、モブ以下の存在に降格させられたのか」

「とどのつまり、そう言うことだ」

「んじゃ、メニューアイコンが見えるかどうか確認したい。

 ステータスオープン!」


 俺はステータスを開き、左上のアイコンを指でさす。


「これ……見える?」

「今の俺には何も……。

 でも、かつてはそこにアイコンがあったと、

 確かに覚えているぞ」

「じゃぁ、メニューに何があったかは?」

「ヘルプとユーザー情報。あとはお気に入り登録だな」

「……それだけ?」

「ああ、俺以外もみんなそうだったぞ」


 んじゃ『評価者確認』と『ポイント評価』は俺だけの特別な機能ってことか。


 まぁ……スキルが『絶対評価ポイントマスター』だからな。

 他の連中にも同じことができたら、もはや死にスキルも同然。

 ちょっとだけ安心したぞ。


「そっか……分かった。

 じゃぁ、また別に質問するぞ。

 お前はなんでここにいる?」

「どういう意味だ?」

「どうもくそもないだろ。

 なんで豚に姿を変えられたお前が養豚場じゃなくて、

 英雄学校なんかにいるんだよ?」

「ああ……それは……」

「いたぁ!」


 大きな声が聞こえる。

 これは……さっきの女性?


 振り返ると、そこには青い髪の女性。

 彼女はつかつかとこちらへ歩み寄る。


「ブヒっ⁉ ぶひひ!」

「なにやってんのよ! こんなところで!

 さっさと生徒会室へ帰るわよ!」


 生徒会室に?

 この豚を?

 なんで?


「あっ……あの……」

「君が見つけてくれたのね。

 サンキュ、サンキュ。

 悪いけど捕まえるの手伝ってくれる?」

「え? はぁ……」


 青い髪の女性の言う通り、俺は豚を追いかける。

 割とあっさり捕まえられた。


「ぶひぃ! ぶひひ!」


 人語を話さず、鳴き声を上げる豚《桧山》。

 彼女の前で会話するとまずいらしい。


「さぁ、さっさと帰るわよ!」

「ぶひいいいいいいいい!」


 桧山を抱きかかえたまま、女性はどこかへ行ってしまった。

 彼女は何者なのだろうか?


 そして……あの豚の言っていたこと。

 あれは本当のことだったのだろうか?


 だとしたら……俺も奴と同じ運命をたどるだろう。

 この世界がハッピーエンドを迎えない限り……。

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