6 押しかけて来た元婚約者
「待っていましたわ! ウィルフレッド!」
二階からエントランスホールを見下ろす俺を、その女は燃えるような眼で睨みつけながら指をさす。
彼女の名前はマイス・フィルド。
評価の数は3.4……微妙な評価である。
きつそうな顔つき。金髪縦ロールの髪型。
エメラルドのように燦然と輝く緑色の瞳。
見惚れて足を止めてしまいそうなくらいに美しい容姿。
紫で統一されたドレスは実にナンセンス。
変な趣味のおばさんが着てそう。
ウィルフレッドの婚約者である彼女の様子は日記からうかがい知れる。あまり良い印象は抱いていなかったようだ。
「戦場から逃げ帰っただけではなく、挙句の果てに入水自殺!
わたくしにどこまで恥を書かせれば気が済むのですか⁉
この甲斐性なし!」
大声で俺を罵りながら、スカートの端をつまんで階段をつかつかと登って来る。一段登るたびに乳がぶるんぶるん。
あまりの気迫に思わず身体がのけぞってしまう。彼女から発せられる圧がヤバイ。
ここにいたら殴られるだろうなと、ぼんやりと考えていた。
そして……彼女は俺の前まで歩み寄り、大きく手を振りかぶる。
ああ……平手でほっぺをばしーんとやられるのだ。
嫌だなぁ、怖いなぁ。
なんて思っていたら……。
……ぎゅ。
首の後ろに手を回され、抱きしめられる。
「あっ……あの、マイスさん?」
「もう……自分を傷つけるようなことはしないでください。
わたくしがいつも隣にいますから……だから……」
マイスは俺の胸に顔を埋め、消え入るような声で訴えかける。彼女の息がチュニック一枚しか着ていない俺の身体に吹きかかってむず痒い。
「だから……どうか……もう……」
俺の胸から顔を話すマイス。
両目いっぱいに涙を浮かべて俺を見つめる。
チクリ。
胸が痛む。
俺は彼女を騙している。
今の俺はウィルフレッドではなく、まったくの別人。
他人である俺が彼女の心を受け止められるはずがない。
俺はとても耐えられなかった。
「すみません、マイスさん。実は……」
「ウィルフレッドさん……私、私……っ!」
「……えっ? んむっ⁉」
いきなり口づけするマイスさん。
あまりに不意のことだったので目をいっぱいに開いてしまった。
「んむっ! んむむむむっ!」
「ちゅ! むちゅ!」
彼女の熱い口づけは数分にわたって行われ、俺の固く閉ざされた唇をこじ開けるように舌が侵入。観念して舌を迎え入れると、彼女のそれは俺の口内で好き勝手に暴れ始めた。熱く絡め合っているうちに性的に興奮した俺は、下腹部に血流を集中させてしまう。
「……まぁ」
唇を離した彼女は、俺の下腹部を見下ろして嬉しそうに呟く。ズボンを隔てて形が分かるほどに膨張していた。
ウィルフレッドさん……立派なものをお持ちのようで。
「あの、ウィルフレッドさま」
「うわぁ⁉ ファムさんいたんですか⁉ いつから⁉」
「最初からずっと傍にいましたが? バカですか?」
メイドのくせに辛辣な口の利き方。
彼女はもう俺をウィルフレッドだとは思っていないらしい。
「……なんですか?」
「あそこをご覧ください」
ファムは無表情のままある場所を指さす。
その先には……。
「ぐぎぎぎぎ……!」
壁の陰に隠れながらハンカチをかみしめ、般若のような表情で俺を睨みつけるソフィアの姿がそこにあった。