59 爆殺丸
キース曰く、武器庫の奥で眠っていたこの武器は強力な力を持つ伝説の兵器で、名を『爆殺丸』と言う。
なんとも物騒な名前である。
かつて、この地には伝説の賢者がいて、彼はこの伝説の武器である『爆殺丸』を使って、数多くの伝説を打ち立てたという。
とにかく伝説の賢者が作った伝説のこの武器はとっても強い。
そらもぅ、伝説的な強さを誇る。
伝説級である。
伝説、伝説、うるせーよ。
伝説村の住人かよ。
とまぁ、こんな感じで簡単に武器にまつわるエピソードを聞かせてもらったわけだが、伝説の武器であるということ以外、何も分からなかった。
伝説の賢者についても詳細は不明のまま。
肝心なことは明らかにされていない。
「それで……結局のところ。
この武器って、どれだけ強力なんですか?」
俺が尋ねるとキースは肩をすくめる。
「詳しいことは何も分からないにゃぁ。
僕も実際に使われたところを見てないし。
でも……記録を読む限りでは、
伝説的な威力を発揮するはずにゃぁ」
「はぁ……」
なんかよく分からないけど、とにかく伝説らしい。
まぁ……なんでもいいか。
「良かったな、ソフィア。
いい感じの武器が見つかって」
「ううん……」
武器を持つソフィアは複雑そうな表情を浮かべる。
こんな用途不明の武器でどう戦えと?
そう問いかけるような視線を俺へと向ける。
だから……俺にも分からんて。
とにかく伝説なんだから、伝説っぽく、伝説的な演出をしてくれるだろう。
マイスにも勝てるかも分からんぞ。
「さて……僕たちはこれで失礼するにゃぁ」
「あの爆殺丸ですけど……」
「ソフィアさまが使いたいなら自由にするといいにゃぁ。
僕たちの実力じゃソフィアさまを止めるのは無理にゃぁ」
「ええっと……力ずくで持って行こうとしてるわけじゃ……」
「もちろん、それは分かってるにゃぁ」
キースは苦笑いして両手の手のひらを振る。
「この武器を管理する権限は僕たちにはないにゃぁ。
武器庫に置いてあるアイテムは基本的に、
誰でも自由に使えるようになってるにゃぁ。
だから好きにするといいにゃぁ」
「はぁ……ありがとうございます」
「僕はお礼を言われる立場にないにゃぁ」
と言っても、この人が助けてくれなかったら、ややこしいことになっていた。暴走するエイダを止めてくれたわけだし……お礼の一つくらい言うべきだろう。
「あっ……あのっ!」
「ソフィアさま? なんだにゃ?」
「この武器を使えばマイスに勝てますか?」
「ううん……」
キースは悩まし気に顔をしかめ、眉間に指をあてる。
「僕にはちょっと分からないにゃぁ。
マイスさんもとっても強いから……。
正直、それ使っても五分五分だと思うにゃぁ」
「そっかぁ……」
ソフィアも相当強いけど、二人の関係性を見る限り、上手なのはマイスの方だろう。
いくらスキルの力が同程度だと言っても、ソフィアはまだまだ精神が未熟で、ちょっとしたことでも動揺してしまう。
マイスの方はああ見えてかなり落ち着いており、肝も据わっているように思える。
戦闘能力が拮抗しているのであれば、中身が優秀な方が勝つ。
マイスが勝利する可能性の方がはるかに高い。
まぁ……向こうも武器を用意して戦うわけだから、伝説の武器である爆殺丸がよっぽどの威力を発揮すれば、勝ち目がないわけでもない。
ワンチャンくらいあるんじゃないか?
「それじゃぁ、僕たちは行くから」
「あの……試し打ちは……」
「そんなことしたら大変だって、さっき言ったにゃぁ。
いい加減にしてほしいにゃぁ」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
くぎを刺されて謝罪モードになるエイダ。
キースはぺこぺこと頭を下げる彼女の手を引いて、無理やり連れて行った。
助かった……。
一応、お気に入り登録しておくか?
二人の簡単な情報が知りたいし。
俺はステータスを開いて、メニューアイコン、お気に入り登録のタブをタップ。二人を続けて登録する。
「またステータス開いてる……」
ソフィアが怪訝そうな顔をして俺を見ている。
いい加減面倒になって来たので、メニューアイコンについて説明しておくか?
「ソフィア、実は……」
「おーっほっほっほ!」
説明しようとしたところで、マイスが登場。
また取り巻きを連れてきている。
少し離れた場所でニヤニヤと嘲笑を浮かべながら、ソフィアに目を向ける取り巻きたち。これから二人がどんなやり取りをするのか、興味深く眺めている。
この人たち、なんでマイスにくっついてるんだろう?
「マイス? なんの用⁉」
「あらあら、そんなに怖い顔をしないの。
可愛らしいお顔が台無しですわよ」
「え?」
急にカワイイなんて言われたもんだから、ソフィアは自分のほほに手を当て困惑した表情になる。
「あらあら、本当にお可愛らしい。
お世辞を本気で受け取るなんて!」
「はぁ⁉ 本気になんてなってないし!
うるさいし! バーカ! バーカ!」
「本当に貧弱な語彙力ですこと。
呆れて物も言えませんわ!
おーっほっほっほ!」
「ぐぬぬぬぬ……」
言い負かされて反論できないソフィア。
勝ち誇ったかのように高笑いするマイス。
実に微笑ましい光景である。
「それはさておき、ソフィアさん。
アナタは当然のようにご存じないでしょうけど……」
「……?」
意味ありげに言葉を区切り、ソフィアを見やるマイス。
彼女は……。




