57 伝説の武器
「さぁさぁ、こっちです」
意気揚々と俺たちを案内するエイダだが、方向音痴の彼女に目的地まで先導する能力があるとは思えない。
断るのは悪いし、ハッキリと言えなかった俺も悪いのだが、さっきからずっと武器庫の中をうろうろしている。
いつになったら目的の武器が見つかるのかな。
先を進むエイダは光を前の方へ向けて行き先を照らしている。懐中電灯のような使い方もできるらしい。
「……はぁ」
ソフィアは残念そうにため息をつく。
明かりをつける役割を取られて悔しいのかな?
それともただエイダがうざいだけ?
「大丈夫か? 嫌だったら俺が彼女に言うけど……」
「ううん、別に嫌じゃないよ。
エイダさん悪い人じゃないし。
でも……本当ならウィル様と二人っきりで、
武器庫の探索がしたかったなぁ」
それもそうだな。
ソフィアからしたら二人で探した方が楽しかっただろう。
俺もそう思う。
別にソフィアと二人っきりになりたいとは思わないのだが、こういうイベントって間に誰かいれたくない。
その方がお互いの知らないことを知れて楽しめる気がする。
「この様子だと、当分さまよう羽目になりそうだな」
「うん……エイダさん、空気読めないから……」
「あっ、何か言いました?」
こっちを振り向くエイダ。
ふいに光を当てられて何も見えなくなる。
「お願いですからこっちを向かないでください!
まぶしくて何も見えません!」
「あっ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
また謝罪し始めるエイダ。
ソフィアが熱を放出して無理やり前を向かせる。
「はぁ……それにしても……本当にがらくたしか置いてないな」
「うん、伝説の武器なんてあるのかな?」
武器庫に置いてあるのは錆びた剣や、曲がった槍や、使い古されたこん棒くらい。まともな武器なんて一つも置いてねぇ。
小柄なソフィアからしたら、どれも扱いにくい武器ばかり。
せめてダガーナイフとか見つからないかな。
「あっ! これです! これ!」
ようやくエイダはお目当ての武器を見つけたようだ。
伝説の武器とやらは一体何かとおもったら……。
「え? なにこれ?」
エイダが照らした先には、額縁に収められた工具。
レンチみたいな形をしている。
大きさは……良く育った大根くらい。
長さにして40センチほど。
片手で持つにはちょうどいい大きさ。
ソフィアが使う分には問題ないだろう。
レンチのような形をしたその工具には、赤い球体が備わっていた。物を挟むところにすっぽりと収まっている。
あの球体はなんなんだろう?
「あの……それって……」
「かつて伝説の賢者と呼ばれた伝説の男が使った、
強い威力を発揮する伝説の武器です。
使い手は数々の伝説を作り上げました。
伝説のこの武器を使って」
エイダは自慢げに話す。
伝説言いすぎて頭の中で伝説の文字がゲシュタルト崩壊を始める。
「で……どんな武器なんですか?」
「見て分かりませんか? 殴るんですよ、これで」
ああ……そうですか。
やっぱり鈍器ですか、そうですか。
殴るにしてはリーチが少ないし、重量も足りない気がする。
せめてメイスみたいに刺々しい見た目にしてくれないか。
あんな小さな武器で殴ったところで、甲冑を着た大男は倒せないだろう。あくまで護身用の為の武器にしか見えない。
ソフィアの方を見ると……微妙な顔つきをしていた。
こんな武器で大丈夫かなと彼女も不安に思っていることだろう。
「あの……これ……」
「ソフィアさんにピッタリだと思います!
誰も使ってないから、勝手に持って行っても大丈夫ですよ!
さぁさぁ、どうぞ! 遠慮なく!」
エイダはそう言って額縁からレンチみたいな武器を下ろし、ソフィアに押し付ける。
んなもんどうしろって言うんだよ。
「あはは……ありがとうございます!」
「ピッタリの武器が見つかって良かったですね!
それじゃぁさっそく外へ出ましょう!
道案内の方、よろしくお願いします!」
「…………」
「…………」
無言で顔を見合わせる俺たち。
この人、人の話を聞かないタイプだな。
伝説の武器とやらを手に入れた俺たちは、エイダを連れて傭兵科の校舎を後にする。
途中、何人かの生徒たちから奇異の目を向けられたが、気にしないでおいた。
別に襲ってくるわけでもないし、放っておこう。
「ささっ……こちらへどうぞ!」
校舎を出たエイダは、俺たちを学校の外へと連れ出す。
方向音痴のくせに何処へ案内するつもりなのか?
「さぁ、ここでドーンとやって下さい! ドーンと!」
ワクワクした様子で言うエイダだが、ここは学校の中庭だ
こんなところで武器を使ったりして大丈夫なのか?
「ええっと……どうしよう」
武器を手に持って不安そうにするソフィア。
ここは……。
「逃げよう」
「……え?」
「こういう場合は逃げるが勝ちだ。
俺に付いて来てくれ!」
「え⁉」
俺はソフィアの手を引いてその場を立ち去る。
「え? ちょっと! どこ行くんですか⁉」
エイダが呼び止めるが無視。
これ以上、関わって良いことなど一つもない。
とそこへ……。
「うわぁ!」
「きゃぁ!」
逃げようとしたら誰かにぶつかった。
その人物は……。




