56 光り続ける女
「うわぁ、なんだこの匂い……」
武器庫の中はじめっとしていて、非常にかび臭い。
こんなところに置いてある武器なんて使いたくないだろう。
んなこと気にしてる場合じゃないな。
さっさとエイダさんを助けないと。
「エイダさーん! どこですかー⁉」
「すみません! 助けて下さい!
ごめんなさい! 許して下さい!」
「そんなに謝らなくても……うわっ! まぶしい!」
暗がりの中から突然、放たれるまばゆい光。
彼女が何処にいるのか一発で分かった。
「エイダさん……まぶしくて何も見えないです!
お願いだから光を消して下さい!」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
本当に謝ってばかりだな、この人。
彼女の身体が光っているのではなく、光源となる物質が身体の表面に付着していて、それが光を放っているようだ。
つまりこれをはがせば暗くなるのだろうか?
直接手で触ってみようと思ったが、まぶしすぎて目視できない。
何か箒のようなもので払ってしまうか?
「えいっ」
「あっつぅ⁉」
そんなことをするまでもなく、ソフィアが熱をエイダに当てて無理やり光を消させた。彼女が能力を解除すると、身体についていた物質も姿を消す。
なんなんだろう、あの謎物質。
触ったら熱いのかな?
「大丈夫ですか? 怪我は?」
「すみません、なんともないです。ごめんなさい」
俺は彼女の手を取って身体を引き起こす。
どうやら足元に転がっていた鉄パイプに躓いたみたいだ。
「本当におっちょこちょいですね……」
「そそっかしくて、ごめんなさい、すみません」
「だから責めてませんって」
「すみません、すみません」
謝り続けるエイダ。
マジで会話が通じないな。
「そう言えば、エイダさん」
「ひぃっ⁉ 何でしょうかソフィアさま⁉」
怖がって俺の後ろに隠れるエイダ。
袖を力一杯につかんで離そうとしない。
鬱陶しいから放してくれ。
「ちょ! ウィル様に触らないで!
その人は私専用なの!」
ソフィアがまたわけの分からないことを言う。
俺はお前のなんなんだ?
「ひぃ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「ソフィア、あんまり大きな声を出すなよ。
また面倒なことになっただろ」
「面倒でごめんなさい!」
あっ、自覚はあったんですね。
エイダの相手をしていても仕方ないので、さっさとソフィアの武器を探そう。この人はここに放置してもいいだろう。
外へ連れて行こうとしたら、それはそれで面倒なことになりそう。
「副会長に頼まれて薬品を調合するために、
薬を取りに行っていたところなんです!
甘い香りや色や味がつけられる魔法の粉薬です!」
「…………」
「…………」
ソフィアはまだ何も質問していないのに、エイダは一人でべらべらしゃべる。
この人に生徒会役員なんて任せて本当に大丈夫か?
心配だぞ。
「粉を混ぜると甘い飲み物になるんです!
あと、眠り薬とか、しびれ薬とか、胃薬とか、
ペロッと舐めたら変態になっちゃう薬まで!
いろんな粉薬を作るように頼まれました!」
「いや……そこまで聞いては……」
「あと!」
まだ何か言い足りないらしい。
この際だから最後まで聴こう。
「あと……なんですか?」
「私、ここから一人だと出られないので……。
帰り道の案内をお願いできますか?」
「ええ……構いませんよ」
本当は断りたかった。
全力で断りたかった。
「ありがとうございます!
すみません、すみません!」
「分かったら、もう謝らないで」
「わわあ! ごめんなさい!
光るから許して下さい!」
ぴかー!
「ソフィアぁ!」
「はいはーい!」
「あっつぅい!」
何度も同じやり取りを繰り返したせいで、実に最悪な気分になった。ソフィアがいなかったらどう対応すればいいか分からなかったぞ。
「あの……そう言えば……お二人はどうしてここに?」
「えっと……」
急に尋ねられたが、答えるのも面倒。
また謝られるかもしれん。
言わなかったら言わなかったで面倒になりそうなので、俺はできるだけ手短にここへ来た理由を話した。
つっても、武器が必要になったので取りに来たと言うだけの話なのだが、相手にいかに謝らせずに説明するかで頭がいっぱいで、なかなか話が進まずやきもきした。
無駄に謝られるのって、怒られるのよりストレス強い。
「それで……武器が必要になったと」
「……はい」
「なるほど、なるほど。そう言うことですか」
俺たちがここへ来た理由を説明すると、変な風に納得するエイダ。
なんだか嫌な予感がするな……。
「それなら、ちょうどいい武器があるんです!
伝説の武器がこの倉庫の奥に眠ってるんですよー!
特別に教えてあげちゃう!」
「…………」
「…………」
急にテンションが変わって、なれなれしくなるエイダ。
本当に嫌な予感しかしない。




