55 謝り続ける女
「うわぁ!」
「まぶしぃ!」
俺とソフィアは揃って顔を覆う。
キスする直前で目を閉じていたのだが、それでも瞼を通して明るさを感じてしまうほどの強い光。まるでサーチライトを直に照射されたかのような……。
「あっ、ごめんなさい! ごめんなさい!
うっかり最大級の光を当ててしまった!
すみません! 本当にごめんなさい!」
光の主はぺこぺこと頭を下げるが、一向に光は弱まらない。
目が焼けてしまいそうだ。
「あの……もしかして会計さんですか⁉」
「え? その声はソフィアさま⁉
ひいいいいいいい!
ごめんなさい! ごめんなさい!
お願いです! 消し炭にしないでください!
殺さないでください! ごめんなさい!
本当にごめんなさい!」
ペコペコ何度も頭を下げる女性だが、光は強いまま。
……わざとやってるのかな?
「あの……ソフィア。この人って……」
「生徒会役員の一人、会計のエイダさんだよ!」
へぇ……生徒会。
なんかおっちょこちょいな印象の人だけどな。
こんな役員で大丈夫か?
「あの……エイダさん! どうか光を……」
「そうですよね! ごめんなさい!
本当にすみません! ごめんなさい!」
「謝罪は良いですから早く光を弱めて!」
俺は何度もお願いするが、彼女は謝るだけ。
この人は何か言うととりあえず謝罪するらしい。
と言うことで、俺は黙ることにした。
ソフィアも黙った。
空気が読めて偉いね。
「…………」
「…………」
「すみません、すみません。
ごめんなさい、ごめんなさい」
「…………」
「…………」
「無言と言うことは……怒ってらっしゃる⁉
ほんとーにすみません!
申し訳のしようもございません!
全力で謝りますので、なにとぞご容赦を!」
ダメだこりゃ。
一発ひっぱたいてもいいか?
「はぁ……仕方ない。あの方法で行くか」
「え? ソフィア? あの方法って?」
「ちょっとみててね」
ソフィアは両手を前に突き出す。
まさか……本当に消し炭にするつもりじゃないだろうな?
「あつっ! 暑いです! ソフィアさま!」
「熱いのが嫌だったら早く光を消して!
じゃないともっと熱くするよ!」
ソフィアが突き出した両手からは、これまた強烈な熱が放出される。やけどするほどではないが、近くにいる俺までその熱が伝わり熱さを感じる。
まるでサウナのなかにいるみたいだ。
「やっぱり消し炭にするつもりですか⁉」
「このままだとそうなるね。
灰になるのが嫌なら早く光を消して!」
「わっ……分かりました! すみません!」
ふっ、っと光が消えて暗くなる。
真っ暗闇で何も見えない。
「はぁ……助かった」
ソフィアはため息をつきながら熱を止め、指先に小さな炎をともした。
この子……何気にスキルを使いこなしてるな。
これでもまだ不十分だと言うのか?
俺には彼女が危険な存在だとはとても思えない。
「すみません、すみません、すみません……」
エイダと呼ばれた女性は廊下の隅でうずくまり、頭を抱えて震えている。本当にこんな人が生徒会役員なのか?
「あの……もう謝らなくていいから、顔を上げてください。
お願いですから光は出さないでくださいね」
「え? ごめんなさい、すみませんでした」
俺が声をかけると彼女はゆっくりと立ち上がり、何度も頭を下げた。
エイダの見た目は端的に言うとオタクっぽい。
長いくせっけの茶髪。
四角い黒縁の眼鏡。
自信なさ気な顔つきに、腫れぼったい目元。
制服の色はベージュ。この人も英雄科らしい。
まぁ……生徒会役員だからな。
彼女の評価は……4.4。
高いけどちょっと不吉な数字。
「もう謝らなくていいですから……。
それよりも、どうしてこんなところに?
エイダさんも武器を探しに来たんですか?」
「武器? え? ここ武器庫なんですか?」
「ええ……そうですけど……」
「やだぁ! また間違えちゃった!
本当は薬品庫に行きたかったのにぃ!」
傭兵科の校舎に薬品庫があるのか?
ちょっと考えにくいが……。
「ねぇ、薬品庫って……」
「傭兵科の校舎にはないよ」
ソフィアは眉を垂らしながら言う。
やっぱり……この人、方向音痴さんだ。
しかもすっごいレベルの……。
「じゃぁ、私。
薬品庫へ向かいますので失礼します!
お騒がせしてすみませんでした!
ごめんなさい!」
エイダさんは一礼し、俺たちの間をすり抜け、武器庫の扉を開いて中へ入って行った。
この人……わざとやってるのかな?
「あの……エイダさん、そこは武器k……」
「きゃああああああああ!」
エイダの悲鳴が聞こえる。
早速トラブルが起きてしまったようだ。
「ウィル様、どうする?」
「どうするって……行くしかないだろ」
俺はソフィアと共に武器庫の中へ。
エイダの後を追う。




