53 ようやくスキルが役に立ったよ
「あ? なんだ急にステータスなんか開いたりして」
ステータス画面を開いた俺を不審そうに眺めるモヒカン。
「突然ですみませんけど……。
彼女の頭の上の評価を見ていただけますか?」
「……は?」
モヒカンは俺を睨みつけながら眉間にしわを寄せる。
「ええ、彼女の頭の上の評価を確認して欲しいんです。
☆がいくつあるか分かりますか?」
俺はそう言いながらマスク女の頭の上に視線を向けた。
このように視線を急に別の方向へと向けると、相手はそちらへつられてしまう。たまにつられてくれない人もいるが……そう言うのは場慣れした玄人。
こういった噛ませ犬は十中八九つられてくれる。
「…………」
マスク女の評価を確認するモヒカン。
彼女の評価は2.7。
「いいですか、彼女の星をよく見ていてください」
「は? 何言って……」
「いいから目をそらさないで!
行きますよ! ワン! ツー!」
「え? わっ……」
「スリー!」
俺はマスク女の頭を指さす。
するとつられてそっちを向くモヒカン。
……本当に扱いやすいな。
俺はポイント評価の項目を選んで☆5の評価をつける。
すると……。
「……えっ⁉」
驚愕のあまり目を丸くするモヒカン。
それもそのはず。
彼女の☆の数は2.7から3.0まで上昇したのだ。
いや……上がりすぎだろ。
評価者少なすぎないか?
「なっ……何がどうなってる⁉」
「え? ねぇ……どうしたの?
私のポイント減っちゃったの⁉」
急に不安そうになるマスク女。
こんな奴でも評価を気にするんだな。
「ちげーよ、増えたんだよ!
☆が三つに増えた!」
「えっ……私が☆三つ⁉ 嘘でしょ⁉」
「嘘じゃねーよ。教会へ行って確認してみろ」
「うっ……うん!」
マスク女はスゴイ勢いで走って何処かへ行った。
あんなナリの奴が教会へ行くと思うと笑える。
総獲得ポイントは教会へ行って確認すると知っていたが、平均評価値も教えてもらえるんだな。
他人から聞くよりも、教会で数値を教えてもらった方が信頼度は高いのか?
よく分からない。
「なっ……なぁ、アンタ。
どうやって☆の数を増やしたんだ?」
「さぁ……それは分かりません。
でも、もし武器庫の場所を教えてくれたら、
アナタの評価も増えるかもしれませんね」
「……ゴクリ」
生唾を飲み込むモヒカン。
こいつの評価は2.4。
マスク女よりも若干低い。
「ちなみにですが……現在のご自分の評価はご存じで?」
「ああ……知ってる。2.4だ」
正確な数字を把握しているな。
なら問題ないだろう。
「ご希望なら、貴方の☆の数も増やせますよ。
武器庫まで案内してくれればですけど」
「わっ……分かった、案内する」
モヒカンは面白いくらいに従順になった。
絶対評価。
これ……クソスキルだと思っていたけど、使い方によってはかなり有用な力だぞ。
底辺の人間ほど評価に飢えている。
俺の力を使えば、どんなクズでもポイントを増やせる。
テキトーな手ごまを増やすにはもってこいの力だ。
まぁ……評価が影響を及ぼすのは底辺の人間くらいだろう。
もともと平均評価が高い人間だと、あまり効果は表れないと思う。
そもそも、評価を気にしている人間でないと意味がないからな。たとえ低評価であろうと居直って堂々としている相手には無意味だ。
そう言う奴って何を言われても動じないので、相手にするだけ無駄なきもするが。
さて……さっさと武器庫へ行って、ソフィアにふさわしい得物を探しますかね。
俺は彼女の方を向いて手招きをする。
やってからしまったと思った。
手招きの仕草は、国によってあっちへ行けの意味合いを持つことを思い出したのだ。
ソフィアを傷つけてしまったのではと思ったが……彼女は俺の方へと駆け寄って来た。あの仕草はこの世界でもこっちへ来いの意味合いを持つらしい。
「んじゃ、案内頼むよ」
「えっと……そのお方はソフィアさまでは?」
「うん、そうだけど……何か?」
「いっ……いえ……なんでもありません」
モヒカンは顔を引きつらせる。
よほどソフィアが怖いんだな。
しかし、逃げ出したりはせず、大人しく案内してくれた。
武器庫は地下室にあるそうで、ところどころカビの生えた階段をゆっくり降りて行く。
足元が見えづらく不安だったが、ソフィアが指先に炎を灯して明かりをつけてくれた。そう言う使い方が可能なくらいには、力をコントロールできるらしい。
「なぁ……そこまで制御できるんなら、
普通に日常生活が送れるんじゃないか?」
俺がそう尋ねるとソフィアは……。
「本当にそう思う?」
「え? まぁ……うん」
「じゃぁ、私とキスしてくれる?」
「え?」
急に何言ってんだこの子。
「いや……それは……」
「やっぱり」
ソフィアはふんとそっぽを向いてしまった。
悪いことを言ったが、やはり躊躇ってしまう。
彼女とキスをするのはリスクが高すぎる。
つーか、二人の女性に言い寄られているのに、気軽にキスなんてしたらダメだろう。
まぁ……マイスとはしたけど、あれは向こうから……。
「マイスとはしたのにね」
ソフィアは口をとがらせる。
「悪かったよ……でもあれは突然彼女が……」
「言い訳するんなら、私ともキスして欲しいな」
彼女は立ち止まって俺の方を向き、目を閉じて顔を上向かせる。
ここで……キスをしろと?
「あのぉ……俺の目の前でやられると気まずいんで、
案内が終わってからにしてもらえますか?」
モヒカンの男が申し訳なさそうに言う。
「あっ、すみません」
「いえ……俺の方こそすみません。
なんか、邪魔しちゃったみたいになっちゃって」
頭を下げながらモヒカン男が言う。
この人……見かけによらず常識人なのか?
「ちっ……」
「ひっ⁉」
ソフィアが舌打ちすると、モヒカン男は顔を青ざめた。
暗がりの中でも彼の顔色が変わるのが分かる。
……どんだけ怖がられてるんだよ。




