52 傭兵科
傭兵科の校舎は薄暗く、じめっとしていてかび臭い。
歩くたびに床がきしんで穴が開きそうで怖い。
廊下や教室には傭兵科の生徒と思われる人たちの姿が見えるが、彼らはこちらを興味深くじろじろと眺めている。
視線は全て俺の方へと向けられていた。
ソフィアと一緒にいると注目を集めてしまうらしい。
彼らの評価は軒並み低く、頭の上には2~3の評価が示されている。
と言っても、全員が低い値というわけではなく、中には4以上の者もいた。
傭兵科だからと言って、必ずしも評価が低くなるわけではないらしい。
ソフィアはわき目もふらずにどんどん奥の方へ進んでいく。
本当に怖い物知らずだな、この子。
「なっ……なぁ……ソフィア。
本当にこんなところに来て大丈夫なのか?」
「え? 平気だよ。傭兵科の人ってみんないい人たちだし」
「……そうなの?」
「うん、話してみると気さくな人が多いよ。
みんな私に丁寧に接してくれるし、
さっきみたいに挨拶もしてくれる」
それって……ただ怖がってるだけじゃないの?
なんて口が裂けても言えない。
ふと……評価者一覧が気になったので、ステータスを開いてメニューアイコンから確認画面へと飛んだ。
ソフィアに画面を向けて、彼女の評価者一覧を確認する。
高評価順にソートして下の方へとスワイプすると、すぐにガラの悪い連中のアイコンが出て来た。
彼らはだいたい3~4の評価を彼女につけている。
傭兵科の生徒がソフィアにつけた評価は結構高め。
それでも、ほとんどは3以下で、やっぱり怖がられているらしい。
さらにその下にスワイプすると色々見れるんだけど、移動中に画面を注視し続けるのは危ないので、今はやめておこう。
俺はステータス画面を閉じる。
「さっきから何やってるの?」
「いやぁ……なんとなく」
ソフィアが足を止めて不思議そうに尋ねる。
メニューアイコンや他の機能が目視できない他の人からしたら、随分と不審そうに見えるだろう。
やっぱり時と場をわきまえたほうがいいな。
「ふぅん……変なの」
「ごめんね、急にステータスが気になっちゃってさぁ」
「…………」
ソフィアは俺をじっと見つめるが、やがて前を向いて歩きだした。
この子もカンが良さそうなので、メニューアイコンのことを隠しておくのは難しいだろう。いっそのこと正直に話してしまうか?
「そういえば……武器ってどこにあるんだろう?」
急にそんなことをソフィアが言い出した。
いや……知ってて歩いてたんじゃないんかい。
「ええっと……知らなかったの?」
「うん、あんまりここ来ないし」
「じゃぁ、傭兵科の生徒に聞こうか」
「そうだね」
と言うことで、近くにいる生徒に声をかけたのだが……。
「ねぇ……」
「ひぃ!」
「あの……」
「ひゃぁ⁉」
「まって……」
「ひでぶっ!」
ソフィアが声をかけたとたんに、血相を変えて逃げてしまう。
……よほど怖がられてるんだな。
「ウィル様……どうしよう?」
目に涙を浮かべながらソフィアが尋ねてくる。
この子に任せてたら日が暮れてしまうな。
「分かった、俺が聞くよ」
「ありがとう!」
つっても、俺が場所を聞いて大人しく教えてくれるかな?
ヒャッハーな外見の人たちって、割と親切な印象があるが……どうなんだろう?
まぁ……とりあえず声をかけてみるか。
ソフィアが一緒にいたら怖がって逃げてしまうと思ったので、彼女には離れていてもらう。
「あのー、すみません」
「ああっ⁉ なんだテメェ⁉」
近くにいたモヒカンの男に尋ねると、急に大声を上げてメンチをきってくる。
絵にかいたような小物で笑う。
「不要な武器の置き場所を聞きたいんですけど、
何処にあるか分かりますか?」
「なんでテメェにそんなこと教えなくちゃいけねぇんだ!」
「あの……なんとかお願いできないでしょうか?
どうしても武器が必要で……」
「ねぇねぇ、そいつ誰ぇ⁉」
教室の中からマスクをつけた金髪ロン毛の女が出て来た。
鎖をぶんぶん振り回している。
着ている制服の色は黒。
これが傭兵科のイメージカラーらしい。
男は全員ヒャッハースタイルだったので、制服があるとは思わなかった。
ちなみに、女の履いているスカートは床すれすれになるほど裾が長い。
「知らねー、コイツがいきなり話しかけてきたんだ」
「へぇ、じゃぁ殺すしかないね」
なんで急に殺すとか言い出してるんですかね、この人たち。
あまりに物騒すぎないでしょうか?
俺はちらっとソフィアの方を見る。
彼女は壁から顔をのぞかせて、こちらの様子をうかがっていた。
危なくなったらいつでも助けに来てくれるだろう。
だから俺は安心して対応できる。
「ステータスオープン」
俺は落ち着いてステータス画面を開く。
さぁ……ここからが腕の見せ所だ。
こんな奴、簡単に篭絡してみせる。
俺にかかればこんな奴いちころだ。




