50 悪役令嬢
その後、ソフィアと二人で校舎を見て回る。
様々な実験器具が置かれた教室。
コンサートホールのような大きな会場。
トレーニング用の機材がたくさん置かれた大ホールなど。
英雄学校には様々な設備が備わっていた。
どうもこの学校。
一般家庭とは設備の質が段違いなようで、普通に近現代的な生活が送れる……らしい。
一番驚いたのは水道があること。普通に蛇口をひねって水が出た。
出てくる水も清らかで普通に飲める。ぬるいけど。
学校のあちこちにランプが設置されていて、時間になると勝手に点灯する。
それらすべて、魔法科の生徒たちの力によって作動しているらしい。
どんだけ有能なんですか。
魔法ってすごく便利なように感じるけど、その役割は本当に地味。設備を適切に作動させるために必要になるが、具体的にどんなことをしているのか謎。
詳しく話を聞いてみたいところだが、ソフィアは何も知らなかった。
「本当に魔法って奥が深いね……」
俺は芝生の上に腰かけながら尋ねる。
学校を見て回った俺たちは、学校の裏にある広場で休憩をとることにした。
広場は花壇に囲まれ、ベンチがいくつか置いてある。芝もきっちりと切りそろえられており、こまめに手入れしているのが分かる。色も青々としていて美しい。
花壇には赤いバラのような植物が植えてあった。
この世界ではなんて名前なんだろうな?
「うん。魔法科の皆ってすごいと思う。
毎日あんなに真面目に勉強して……」
「英雄科の生徒も勉強するでしょ?」
「確かにするけど……ほとんどは実践訓練だね。
この学校には傭兵科と騎士科もあってね……。
その人たちと一緒に戦闘訓練をするんだ」
へぇ……そんなに学科が沢山あるのか。
何を勉強するんだろ。
「アリーナや学校の周りの砦で?」
「うん、そうだよ」
「どんな訓練をするの?」
「後で見せてあげるよ。私が戦ってるところ」
「…………」
ソフィアが本気出したら、数千人が一度に消し炭になると思う。あまり本気の出しすぎもよくないぞ。
「あぁらぁ! ソフィアさぁん!」
何処からかマイスの声が聞こえる。
なんかテンション高いな……。
声がした方を見ると、マイスが取り巻きをゾロゾロ引き連れて、こちらへ歩いてくるのが見えた。
なぜか手には扇子を持っている。
取り巻きの生徒の制服はベージュ、水色、ピンクと様々。
ピンクは騎士科の生徒の色かな?
「こんなところにいらしたのね!
相変わらず、一人ぼっちでさみしいこと!」
「きょっ……今日はウィル様がいるもん!」
「それは彼にわたくしがお願いしたからでしょう。
好きで一緒にいるわけではありませんわ!」
「そんなことないもん!」
取り巻きを後ろに残して、マイスは扇子をひらひらさせながらソフィアの方へ歩いてくる。
なんかいつもと雰囲気が違うな……急にどうした?
「まぁ……ウィルフレッドさんが一緒にいたとしても、
アナタがボッチであることに変わりありませんけど!
おーっほっほっほ!」
「うぎぎぎぎっ!」
マイスの挑発に顔を真っ赤にするソフィア。
心なしか周囲の温度が上がった気がする。
マイスが連れて来た取り巻きたちは、遠くの方でニヤニヤしながらソフィアを眺めている。
……なんだこの人たち。
二人はぎゃあぎゃあ言い争いを続けているが、はたから見たら意地悪をしに来たお嬢様と、かわいそうな貧乏少女みたいな構図。
こう言うのって……どこかで見たことあるな。
割とよくあるテンプレだと思う。
悪役お嬢様と貧乏少女って。
「そう言えばソフィアさぁん。
お友達が一人もいないアナタは知らないでしょうけど、
本日行われるアリーナの公開模擬戦では、
スキルの他に武器も使うらしいですわぁ」
「え⁉ そうなの⁉」
「あらあら、本当に何も知らないのですねぇ。
これだからボッチは! おーっほっほ!」
「どっ……どうしよう……私、武器なんて……」
怒っていたソフィアはそれを聞いて一転、困った表情になる。
「あなたのような人は、
ボロボロの使い古しの武器がお似合いですわ!
確か傭兵科の校舎に不用品が置いてあったはずですけど、
それを使って戦えばよろしいのでは?
まぁ……あまりにボロボロすぎて、
使い物になるとは思えませんけど!」
……うん?
「え? そうなの?」
「ええ、貴方のような庶民上がりの貧乏人に、
ピッタリの武器が見つかるはずですわ!
せいぜい、頑張ってお探しなさいな。
さて、私は用事があるので失礼しますわ。
ごきげんよう。おーっほっほ!」
「…………」
高笑いしながらその場を離れるマイス。
取り巻きたちの所へ歩いて行く。
もしかして……いじわるしに来たんじゃなくて、ソフィアが知らない情報を教えに来たのか?
そうとしか思えないが……。
「……ふん」
不機嫌そうに鼻を鳴らすソフィアだが……少しだけ口元が緩んでいた。
……ような気がする。




