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47 しっとりふわふわパンが食べたい

『幼少期は病弱で成長が遅く、村の子供たちからいじめをうけていた。ゴッツは自分を守るべく身体を鍛え、強靭な肉体を手に入れる。しかし、成長した今もコンプレックスが消えておらず、性格は陰鬱で根暗なまま。友達も少ない。普段はスクールカーストの上位とつるんでいるが、肌が合わないと常々感じている。あと、猫が好きで豚が嫌い』


 ゴッツのキャラクター説明には、このように記載されていた。


 ううん……あんなナリで陰キャなのか。

 人は見た目によらないというか……。


 普段からつるんでる連中とはノリが合わないらしい。

 陽キャの中に擬態して紛れ込んでも、陰キャだと心の底から楽しめないのだろうか。


 俺は陰キャでも陽キャでもない、中途半端な存在なので、ノリが合わない人と一緒にいる苦痛が分からない。どっちにも合わせられるし、別に平気。


 彼は本音を吐けず、一人で苦労しているようだ。

 上手くすればたやすく懐柔できるかもしれん。


 まぁ……風紀委員長だからと言って、積極的に絡む必要はない。接触するにしても役に立つかどうか見極めてからだ。

 役職に就いた人間が必ずしもキーマンになるとは限らない。


 物事を動かすような人間は、実はあまり表に出ない。目立たないところで息をひそめながら、お人形を動かして表舞台の脚本を思うままに書き換える。


 高橋はいつもそうしていた。

 俺も同じようにすべきだろう。


「…………」


 立ち去るゴッツの背中を見送る。

 キャラクター説明を読んだ後だと、彼の大きな背中が物悲しく見える。


 あの人も色々と大変なんだろうなぁ。


「はぁ……良かったね。

 変な絡まれ方するかと思った」


 ホッと胸をなでおろすソフィア。

 そんなことをしたら消し炭にされると彼も分かっているので、下手に手を出してきたりはしないだろう。


「じゃぁ、パンでも食べようか」

「あっ……そう言えばそうだね」


 渡されたパンを食べるのを忘れていた。

 手の中ですっかり冷めてしまったが、食べる分には問題ないだろう。


 俺はソフィアと並んで席につき、小さなパンをほおばる。


「主よ……このパンをお与えになり感謝します」


 ソフィアは食べる前にちゃんとお祈りをしていた。


 俺は何も祈らずに食べてしまった。

 こういうのちゃんとやらないと、後で苦労するようになる。


 彼女をまねて適当な文句を並べてお祈りをしておく。


「……おいしいね」

「……うん」


 ソフィアに調子を合わせたはいいが、全然おいしくない。

 ぱっさぱさのかっすかす。

 激しく水分が欲しくなる。


 ああ……しっとりふわふわパンが懐かしい。

 どうやったらあんなクオリティの高いパンを量産できるんだろう。ヤ〇ザキが工場ごと転移してこないかな?


 あっ、でも工場が転移してきたところで、材料が無いと無理か。働く人だって必要だし、相応の電力や燃料も必要になる。

 これらを滞りなく補給する必要があるので、工場だけ転移しても無駄か。


 そう考えると……俺が普段、食べてたパンってすごいんだな。

 莫大な人員とエネルギーと物資を注ぎ込んで作られた英知の結晶。それがスーパーやコンビニで売られている食パンなのだ。


 パンだけでなく、おにぎりやスナック総菜、弁当なんかも、大量の資本を投じて生産されている。働く人たちも万単位で存在していたはずだ。


 いや……輸送や販売のことも考えると万では済まないか?

 一部の食材を海外で生産、もしくは輸入していたら、億を超える人が仕事に関わることになるかもしれない。


 物流に関しても、港や道路などのインフラが必要だ。これらを整備するのにはこれまた莫大な資金と物資と人が必要になる。

 販売店が無ければそもそも消費者の手に渡らない。接客や案内だけしていればいいというわけでもなく、施設を適切に管理運営する必要がある。


 食パン一つ消費者に届けるだけで、どれだけの費用と人員が必要になるのか。あまりに大規模な話になりすぎて思考が追い付かない。


 まぁ……そんなことを考えたところで、ふわふわしっとり食パンが俺の元へ届くことはない。

 手元にあるのは糞マズ低クオリティのカスみたいな小さなパン。

 俺は一生これで飢えをしのがないといけない。


 食パンって……チートだったんだな。


「はぁ……おいしかった!」

「うん……そうだね」


 ソフィアは満足そうに口元に着いたパンくずをぬぐい、指に着いたカスを舐めている。


 俺はとにかく何か飲みたい気分。

 口の中が冬場の日向に放置した洗濯ものみたいにカラカラ。


 ああ……牛乳でもコーヒーでも何でもいいから飲ませてくれ。


「じゃぁ、腹ごしらえも済んだことだし、

 次の場所へ連れて行ってあげようかな」


 ソフィアはそう言って席を立つ。


 何も飲ませてくれないんですか?


「そうか……じゃぁ、井戸にでも連れて行ってもらおうかな」

「え? 井戸? なんで?」


 不思議そうにするソフィア。

 頼むから察してくれ。


「いやぁ、喉が渇いたときはどうするのかなって」

「井戸なんて使わないよ?」

「じゃぁ、何か飲みたくなったらどうするのさ」

「そんな時は、あれ……」


 そう言ってあるものを指さすソフィア。

 そこには……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >彼は本音を吐けず、一人で苦労しているようだ おお……! 友達第一号(?)の予感……! >上手くすればたやすく懐柔できるかもしれん。 そっちかよ! うん……。 そうだよね……。 …
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