45 学校を案内してもらったけど何かおかしい
英雄学校。
それは未来の英雄を育てる学び舎。
地方から多くの子供たちが集められ、戦うための訓練を受けている。
……のだが。
「なんだこの学校。まるで墓場みたいに静かだな」
俺が校舎に足を踏み入れた第一印象はそれだ。
校舎の入り口にはたくさんの下駄箱が置かれていて、みたまんま俺が知ってる学校みたいな作りだった。
廊下を進むといくつもの教室が並んでいる。
生徒たちの姿はちらほらと見えるのだが、みんな全くお喋りしない。それどころかすれ違うとさっと壁際により顔を背ける。
中には本やカバンで顔を隠す生徒もいた。
「そう? 普通じゃない?」
「え? 普通? これが?」
「うん……普通だと思うけど?」
「…………」
これが普通ってどんな学校だよ。
意味が分からないのだが?
校舎の中はとても静かだ。
生徒が何人もいるのに、誰もがひっそりと息をひそめて過ごしている。
これが普通って……ありえないと思うが。
「ソフィアは何処へ行くの?」
「えっと……私ってほとんどの授業が免除されてて、
必修科目以外は自由にしてていいんだ。
だから一緒に学校を見て回ろうよ」
「そうなんだ……」
ソフィアは特待生としての扱いを受けているらしいが、授業中に暴走されたら困るから教室に入れたくないだけだと思う。
俺はソフィアと校舎の中を見て回る。
教室ではさっそく授業が始まっていた。
ちょっと様子を見た感じ、俺の知ってる学校の雰囲気とよく似ている。少しだけ違うのは、生徒が座っている席の位置が奥から手前にかけて段々になっており、前が見やすいようになっていたところ。
黒板も俺が知っている物よりもずっと大きい。
教師は教科書を片手に、黒板に難しい字を書きこんでいる。
日記はスラスラと読めた俺だが、黒板の内容を理解することはできなかった。いったい何の授業をしているのだろうか?
ソフィアによると、この学校では魔法による授業も行っているらしい。
しかし、魔法の授業を受けるのは一般の生徒だという。
……意味が分からない。
よく見てみると、制服の色が違う。
マイスとソフィアはベージュの色のブレザーを着ていたが、魔法の授業を受けている生徒が着ているのは薄い水色。
彼らは魔法系の授業を受ける生徒だという。
「魔法系ってさ……つまり魔法使い専門ってことだろ?
ソフィアやマイスは魔法の授業を受けなくていいの?」
「多少はやるけど、あんまりだね。
だって……魔法って使えても強くならないし」
「うん? スキルの方が強いの?」
「そゆこと。
魔法ってどっちかっていうと機械を動かしたり、
仕事をしたりするときに使う力だから、
戦闘だとあまり役に立たないんだぁ」
「ふぅん……」
この世界では呪文を唱えて魔法を打ち合ったりはしないらしい。
随分と地味な設定だな。
ソフィアによると、魔法は学校の運営に欠かせず、仕事をするときにも必要になるという。そのため、何人もの魔法科の生徒がこの学校で授業を受けながら英雄科の生徒をサポートしているとか。
英雄科の生徒も魔法の授業を受けるが、入門程度らしい。彼らが本格的に魔法を学ぶのは戦場から帰って就職先を探すとき。
ということで、魔法科の生徒はエンジニアみたいな存在で、戦闘訓練には参加しない。彼らの役割は、この学校で英雄科の生徒が心置きなく訓練に取り組めるよう、学校の設備をきちんと管理・運営すること。
施設の管理まで任せるとなると……よっぽど大変だと思う。
何をさせられるのか知らんけど。
「この戦闘服も魔法科の生徒の子が作ってるんだよ」
「へぇ……」
そう言ってまたもスカートをたくし上げるソフィア。
パンツじゃないから恥ずかしくなくても、やりすぎると変態に思われるぞ。
「魔法って地味だけど便利なんだなぁ」
「うん、アリーナの管理も魔法科の生徒がやってるからね。
魔法なしじゃこの学校は成り立たないよ」
「アリーナ?」
「外にあった白くておおきいやつ」
ああ、あの球体ね。
やっぱりあの中で戦闘訓練をするらしい。
魔法がどういう仕様なのかは分からないが、たとえ俺が頑張って習得したところで状況は好転しなそうだ。
ちょっと期待はしてたんだけどなぁ……。
ソフィアは俺を食堂へ連れて行ってくれた。
厨房から注文した料理を受け取って、席に持って行って食べるシステム。向こうの学食と大して変わりない。
「へぇ……良い匂いがするな」
「何か食べてく? 生徒は無料だよ」
「俺が食べてもいいのか? 一応、部外者だぞ」
「大丈夫、大丈夫。へーき、へーき」
そう言って厨房のカウンターへと向かうソフィア。
本当にいいのか?
彼女は料理人を呼んで何やら注文を付けている。
応対した小太りのおっさんは、面倒くさそうな顔をしながら、奥の方からパンを二つ取っ手きてくれた。
「ほら、貰って来たよ」
「うっ……うん……」
ソフィアは小さな丸いパンを二つ手に持っている。
「おひとつどうぞ」
「ありがとう……うわぁ、暖かいね」
「当然でしょ。焼きたてなんだから」
「そうか……ははは」
「おおいっ! お前らっ!」
ふいに大きな声が聞こえたので振り返る。
そこには……。




