44 学校に到着したわけだが……
英雄学校。
どんな施設かと思ったら、案外普通の場所……ではない。
目に入ったのはドーム型の大きな建物。
建築様式がよく分からないのだが……なんか独特な形状をしていた。
なんだろうな、あれ。例えるなら……ガスタンク?
港とかに置いてあるでっかいやつ。あれに似ている。
巨大な白い球体が何本もの柱に支えられ鎮座している。あの中で戦ったりするのだろうか?
一応、その隣には4階建ての普通の建物があった。
コンクリートでも使っているのか、随分と頑丈そうな見た目。
赤い屋根がきれいだけど……手入れするの大変そうだな。
瓦職人はあんなに高いところまで登って仕事をするのか?
勾配だってきつそうだし……職人さんは苦労するだろう。
白い球体は校舎よりもはるかに大きく、いったいどんな素材でできているのか気になる。未知の金属か何かだろうか?
元居た世界でもこんな建築物は見たことがないぞ。
球体の方に目が行きがちだが、学校の周囲には異様な光景が広がっていた。
堀に囲まれた砦。壁に囲まれた砦。ボロボロの朽ちかけた砦。
いくつもの砦が学校の周りに点在している。
どうやら実践訓練を行う施設のようだ。
そして……砦がある場所よりもはるか向こう側。
平地のど真ん中に巨大なクレーターが開いていた。
隕石でも衝突したのか?
「なぁ……色々と聞きたいんだが……。
あのクレーターって……」
「もぅ! 遅いよ!」
制服に着替えたソフィアが俺たちを迎えに来た。
本当にもう到着してたのか。
ファムの言ってたことは本当だったんだな。
「すごいな、ソフィア。もう着替えたのか?」
「え? うん……まぁね。
毎日ここまで走って来てるし、
大した距離じゃないからすぐについたよ」
ちょっと誇らしげに胸を張るソフィア。
体力には自信があるみたいだ。
「そう言えば、戦闘服は?」
「え? 下に着たままだけど?」
彼女はスカートをたくし上げる。
さっき着ていた競泳水着みたいな服が見えた。
「まぁ……はしたない。学校の前で……」
マイスが苦言を呈する。
別にいいんじゃないか?
どうせ下着じゃないから恥ずかしくないとかだろ。
さっきまで普通にその格好で走ってたみたいだし。
「ふん、そんなでっかい物ぶら下げてるアンタに言われたくない」
そう言ってマイスの胸を指さすソフィア。
この子……胸にコンプレックスありそうだな。
全体的に幼い見た目だし……。
「あらあら、お可愛らしいこと。
悔しかったらあなたも成長してみなさいな」
「ぐぬぬ……ふん!」
マイスの言葉に何も言い返せないソフィア。
悔しそうにそっぽを向く。
お前らさぁ……最高に仲いいんだから、お互いもっと素直になれよ。
普段から犬猿の仲みたいにふるまってるのに、なんで二人とも相手に最高評価つけてるんだよ。
意味わからんわ。
「まぁ、ソフィアも来たことだし、ちょうどいいですわね。
ウィルフレッドさんに学校案内をして差し上げて」
「はぁ? なんでアンタに命令されなくちゃいけないの⁉」
「あら、いやなら別に構いませんわ。
わたくしが自ら案内いたしますので」
「え? それは……」
ソフィアは途端に大人しくなる。
「それで……どうするのかしら?」
「え? ううん……やる」
「じゃぁ、お願いいたしますわ。
ウィルフレッドさん、わたくし用事がありますので、
これで失礼させていただきます。
後程、ご挨拶に向かわせていただきますので……」
「え? 挨拶? ああ……わかった」
なんで挨拶する必要が?
俺の疑問に答えることもなく、彼女はとっとと歩いて行ってしまった。
「…………」
「…………」
その場に残された俺たち。
御者は挨拶もせずに馬車を走らせて何処かへ行く。
「ええっと……学校を案内してくれる?」
「うん……いいよ」
なんか微妙に気まずいな。
俺の案内を任されたソフィアはどうすればいいか分からず戸惑っている。ここは……。
「とりあえず簡単に校舎を見て回ろうか。
勝手が分からないと、
俺も何をすればいいのか見当がつかない」
「ううん……ウィル様のお仕事ってマイスのお世話だよね?
どうして私が学校案内するのかなぁ……別にいいけど」
ソフィアは釈然としないながらも、
俺の案内を引き受けてくれた。
この子だとちょっと不安だが……まぁ大丈夫だろう。
本音を言うと、マイスに案内してもらいたかった。
あの人はなんでもそつなくこなすイメージ。
安定感がスゴイ。
対してソフィア。
まだ数日間しか付き合っていないが……この子が危険な存在なのは理解したつもりだ。ちょっとした出来事でもすぐに混乱してしまうので、扱いには注意したい。
「それじゃぁ、頼むよ」
「うん……分かった」
俺とソフィアは英雄学校の門をくぐった。




