43 仕事の内容
「ええっと……それは……」
「早めに話しておいた方がいいと思いますが」
ちらっと俺の方を見やるファム。
なにやら不穏な空気を感じる。
「じっ……実はその……ウィルフレッドさん」
「なんだよ?」
「わたくし、近いうちに見合いをすることに……」
へぇ……見合い。
婚約破棄になったのはそれが理由?
それともその後に見合いの約束を取り付けたのか?
「そうだったんだ……あっ」
口にしてから、ちょっと待てと思った。
そんな無関心な調子でどうする。
マイスは俺……というかウィルフレッドと結婚するつもりでいるのだ。だから彼女を悲しませるようなことはしてはならん。
ここはひとつ、男らしく振舞おうじゃないか。
「んなもん、とっとと蹴れよ。
俺がいるんだからさ……」
「……あらぁ」
ほほに両手を当てて嬉しそうにするマイス。
この子ってもしかしなくても……チョロイ?
いや、そもそもウィルフレッドに対して好感度最大だからな。きっと☆の評価も満点の5なのだろう。
そうに違いない。
だから、俺が何を言っても喜ぶのだ。
決してチョロインなどではない。
……と思う。
「その様子なら心配なさそうですね。
どうぞ、これからもウチのお間抜けで考えが足りなくて、
精神的に軟弱で肉体も貧弱なウィルフレッドさまを、
どうかごひいきにください」
そう言って頭を下げるファム。
めっちゃ馬鹿にしてたな。
……なんで?
「なぁ……お前さぁ、俺に仕える従者だよな?」
「婚約者に隷属する駄犬のようなクソガキに、
忠誠を誓った覚えはありませんが?」
眉一つ動かさずに淡々と言う。
くっ……コイツ!
本当にむかつく!
「まっ……まぁ。
それはそうと、お話の続きをしないと」
マイスが場をとりなしてくれた。
この子、本当にいい子だよな。
「んじゃ、質問させてもらうけど、
学校へ行ったら俺は何をすればいいの?」
「それは……」
マイスは腕を組んでうつむいたまま考え込む。
もしかして……。
「それは……考え中ですわ!」
などと言うのだ。
……勘弁してくれ。
「えっと……じゃぁ一緒に付き添えばいいのか?
雑用くらいなんでもやるぞ」
「あっ、わたくしにも付き合いがありますので、
よろしければソフィアさんの面倒を見てください」
「え? ソフィアの?」
それじゃぁソフィアの付き人じゃねぇか。
マイスの世話係が仕事じゃなかったのかよ?
「なんで?」
「ええっと……理由は後で考えますわ」
「理由でなく、仕事の内容を考えて欲しいんだが?」
「分かりました……今日中にでも……」
マイスはしょぼんと首を垂れる。
怒っているわけではないので、そんなにしょぼくれないでくれ。
別に仕事なんてなんでもいいのだ。
パン買って来いって言われたら買ってくるし、かばん持てって言われたら持つし、椅子になれって言われたら喜んで四つん這いになるぞ。
いや……さすがに最後のは嫌だな。
仕事の内容が決まっていないのなら、自分で探すしかない。
指示待ちでぼーっとしてるわけにもいかないので、何かしらできることがないか積極的に動いて探していこう。
探せばきっと何か見つかるはずだ。
なんなら学校の仕事を受け持ってもいいぞ。
事務系はちょっと苦手だが……用務員の仕事なら任せてくれ。
便所掃除、庭の手入れ、給食当番。
割といろんな仕事のスキルを持っている。
それもこれも、高橋の所で働いていたからだ。
あいつは色んな雑用のスキルを俺に身に着けさせた。
そうすれば何処にでも潜入させられるんだと。
あっちにいた時は、いろんな組織で雑用してたなぁ。
やくざの事務所とか警察の関係者とかではなく、ごくごくフツーの会社に潜入していた。集める情報も大したものではなく、必要とされたのは対人関係で悩みを抱えている人物の身元情報くらい。
高橋は困っている人、悩んでいる人、社会的に弱い人たちに目をつけて、あれこれしていた。そういう連中が一番金になるそうだ。
実際にそうだったし、俺もそういう連中と何本もの繋がりを持っていた。だから……困っている人を助けるのは得意だ。
学校でも今までのスキルを活かして、困っている人をたくさん助けてあげよう。
そうすれば……きっとみんな笑顔になる。
最高じゃないか。
そろそろ次の質問でもしようか。
3番の結婚の意思は……確認するまでもない。
彼女は絶対に婚約破棄に同意しないだろう。
もし強制的に見合いさせられそうになったら、俺がぶち壊してやればいい。映画の「卒業」みたいに盛大にやろう。ああいうノリは大好きだ。
それでは……4について。
彼女はソフィアのことをどう思っているのか?
いきなり質問するのは気が引けるな。
ちょっと前振りに別の話でも……。
「着きましたよ」
御者が言った。
質問する余裕はなかったな。
「さぁ、いよいよですわ! 付いて来て下さい!」
そう言って意気揚々と馬車を降りて行くマイス。
俺も降りようとすると……。
「あまり、自分の力を過信しすぎないことです。
でないと後で手痛いしっぺ返しをくらいますよ」
座ったままこちらを見てファムが言う。
「……なんだよ、急に」
「いえ、少し心配になっただけです。では……」
彼女はそう言って黒い影に呑まれ、とぷりと座席の中へ消えて行く。
……急に不安になって来たな。
何も起きなければいいのだが。




