表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/206

42 馬車の中で

 馬車に揺られながら外の風景を眺める。


 平坦な土地には視界いっぱいに畑が広がり、麦が風に揺られている。

 あちこちで農夫の姿を見かけた。

 どうやら収穫に精を出しているようだ。


 この国は涼しい気候で過ごしやすく、蒸し暑さも感じない。

 避暑地にはもってこいだな。


「…………」


 さっきから向かいに座っているマイスが落ち着かない。

 俺を見ながらずっとそわそわしている。


 ……何か聞いて欲しそうだな。


 とりあえず、何を尋ねるか選択肢を用意しよう。


 1 英雄学校ってどんなところ?

 2 仕事って具体的に何をすればいいの?

 3 まだ俺と結婚するつもりなのか?

 4 ソフィアのことについて。


 順番に聞いて行くとするか。

 話しているうちに目的地に到着してしまうかもしれないので、優先度の高い質問から聞いて行こう。


 ではまず1。


「なぁ……英雄学校ってどんなところなんだ?」

「それはですね!」


 待ってましたと言わんばかりに解説を始めるマイス。

 英雄学校とは……。


 曰く、各地から英雄の素質を持った子供たちが集められ、学生寮で生活しながら学業に励んでいる。

 教わるのは主に戦い方だが、一般教養や基礎的な知識、金の稼ぎ方など、一般人として生きて行くのに必要な勉強もする。

 これは彼らが退役した後のことも考えてのことらしい。


 ……そんな配慮ができるのに、ソフィアを人間爆弾にするのか。

 俺は内心で口をとがらせる。


 学生の中でも、選り抜きのエリートは特別な授業を受け、最前線へと送り込まれるらしい。手柄を立てて英雄となった生徒は母校へと凱旋し、講師としての職が用意されているとか。


 んで、その英雄になれる確率はナンパーなんですかね?

 まさか100人に一人とか言わないよな?


「その戦場ってどんなところなんだ?」

「それは……すみません、詳しいことは分かりませんの」

「ふぅん」


 マイスはあまり戦況に詳しくないらしい。

 学校でも生徒たちに伝えてないのか?


 こういう情報って、戦意高揚のために大げさに脚色して喧伝するイメージがあるけどな。この国では違うのだろうか?


 戦況について何も知らないマイスだが、いちおうどことどこが戦っているかくらいは知っていた。


 俺たちがいる国は、いわば国家連合。

 小国が同盟を組んで一つの勢力を形成している。

 対する敵は大帝国。

 一人の帝国が諸侯の治める領地を統括する一大国家。


 その二つが対立しているらしい。

 まぁ……なんとシンプルで分かりやすいことか。


 んで、両国の間には全く関係ない第三勢力の国が複数あり、そこでドンパチやらかしているらしい。

 人様の国でよくやるよ。


 間に挟まれているのは、亜人たちが住む国。

 ドワーフとか、エルフとか、ハーフリングとか、オークとかが暮らしているそうな。


 彼らは基本的に中立的な立場ではあるが、自分たちの住む領域に入って来ることをよしとしない。

 両国は彼らを刺激しないようにルートを定め、決められた場所で戦っているそうだ。


「毎回、戦う場所は固定なの?」

「ええ、そうですわ」

「奇襲とか夜襲とか通商破壊とかは?」

「えっ……なんの話をしているのですか?」


 眉をひそめるマイス。

 この調子だとまともな戦術の知識は持っていないらしい。


 かくいう俺も、戦術にはとくに明るくない。

 金の儲け方なら嫌と言うほど勉強したが、あまり身に付かなかった。


 身に付いたのは自分を偽る技術のみ。

 あまり難しいワードを脳内に詰め込む気にはなれない。


 そのため、戦争で何か役に立てるかと言うと、その自信は皆無だ。絶対評価ポイントマスターなんてクソスキルで戦えるとも思えない。


 おまけに、ウィルフレッドの肉体は軟弱なもやし体系。こんな体躯ではステータスの上限もたかが知れている。

 ファムですらあのレベルのストックがあるのだから、もうちょっと頑張ればこの身体でも何とかなりそうな気もするが……。


「お呼びですか?」

「え? うわぁ?!」


 突然、俺の隣にファムが現れた。

 なんで⁉


「なんでお前がいるんだよ⁉」

「いえ、呼ばれたような気がして」

「呼んでねぇよ!」

「そうですか」


 そうですか、じゃねーよ。

 とっとと帰れ。


「悪いけどマイス、隣に行かせてくれ」

「え? まぁ……よろしくてよ!」


 そう言って横にずれて、空けた座席をぽんぽんと叩くマイス。むっちゃくちゃ笑顔になっている。

 ……ちょっとかわいい。


「悪いな」

「いえ、そんな……こんなことでお礼なんて……。

 あの……よろしければですけど……」

「分かった」

「キャッ⁉」


 俺はマイスの肩を抱き寄せる。


「いっ……いきなり何を……」

「悪いけどしばらくこうさせてくれ」

「はっ……はい!」


 俺はマイスの肩を抱いて、自分の方へ引き寄せる。

 ファムはそれを見て目を鋭くした。


「……なんだよ」

「いえ、別に」

「お前は呼んでないから、とっとと馬車を降りろ。

 なんだったら走ってるソフィアの様子でも……」

「彼女ならもう学校に到着しました。

 ここへ来たのは彼女の荷物を届けるためです」

「……え?」


 こいつの言っていることは本当なのか?

 信じられないな。


 本当だとしたら、よっぽど学校が近いか、ソフィアの足がくっそ速いことになる。

 多分、後者なんだろうなぁ……この流れだと。


「だったらさっさと届けにいけよ」

「先ほどスキルでお届けしました」


 マジかよ……。

 本当に『影』のスキルって便利だな。


 用が済んだらさっさと消えろ。

 そう言おうとしたら……。


「そう言えば、マイスさん。

 例の件、どうなりました?」


 ファムが尋ねる。

 ……例の件?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ