41 みんなを笑顔に
翌朝。
俺はソフィアと共に屋敷の外でマイスを待った。
服装は普段通りでいいと言うので、俺は適当な服をチョイス。
つっても、貴族の服装なんてどれも豪華な物ばかりなので、使用人の服を選んだ。こっちの方が動きやすいし、仕事としても適切だろう。
ちょうどいいサイズが見つかったのでよかった。この屋敷では男の子も働いていたらしい。
「あのさ……ソフィア」
「え? なに?」
「その格好だけど……」
「どこか変?」
きょとんとするソフィア。
彼女は競泳水着のような服に、黒いハイニーソと黒いオペラグローブという、なんともマニアックな格好をしていた。
まさか……その姿で登校するのか?
「変っていうか……なんていうか……」
「これね、戦闘服なんだ。
私がどんなにスキルの力を使っても壊れないし、
とっても動きやすくて丈夫なの」
「へぇ……」
なにか特殊な力でできてるのかね?
不思議な力でコーティングでもされてるんだろう。
この世界のことがまだよく分からないので、深く突っ込むのはやめておこう。
「……荷物は?」
「ここにあるよ。制服も入ってるから安心して」
そう言って大きなボストンバックを両手で持ち上げるソフィア。
それを抱えながら走るのかぁ。
「向こうで制服に着替えるの?」
「うん、上に着るだけだから簡単だよ」
「汗臭くならない?」
「えっと……私の場合なんだけど……。
汗で着いた匂いって全部熱で燃やせるから、
あんまり気にならないんだよね。
そもそも汗もあんまりかかないっていうか」
「…………」
今更だけどこの子、人間なのかな?
「あっ、来たみたいだよ!」
「おっ、あれか……」
遠くの方から白一色で塗り固められた馬車が近づいてくる。
あれが……マイスの乗った馬車?
「おーほっほっほ! お待たせしましたわ!」
目の前に停車した馬車の扉が勢いよく開かれ、中からマイスが姿を現す。
彼女はベージュ色のブレザーを着ていた。
向こうの学生服とデザインが似ている。
この世界の縫製技術は現代水準なみらしい。
屋敷のトイレはボットン便所だったし、水もいちいち井戸からくんで使っていた。照明も蝋燭やランプのみ。
普通に発展途上な世界だと思ったんだが……縫製技術だけはすごく進んでいる。
……なんかよく分からない世界である。
「ささ、ウィルフレッドさま、さっそくお乗りください!
今日は特別にソフィアも乗せて差し上げてもよくってよ!」
「……え?」
馬車に乗せてもらえると聞いたソフィアは戸惑った顔つきになる。
「あら……どうしたのかしら?
わたくしの馬車には乗れないとでも?」
「いや……ちがっ……」
「ではさっさとお乗りなさい」
「…………」
乗れと進められても、ソフィアは馬車に乗ろうとしない。
……何が問題なんだ?
「ごめん、私。やっぱり走って行く」
「え? 待てよソフィア。
せっかくマイスが乗れって言ってるのに……」
「じゃぁ……荷物だけお願い!
私、先行ってるから!」
そう言って俺にカバンを押し付けるソフィア。
彼女はわき目もふらずに走り出し、あっという間に遠くまで行ってしまった。
「はぁ……本当に強がりばかり。心配ですわ」
マイスが小さくつぶやく。
本音を思わず漏らした感じだ。
「あの……マイス?」
「え? あっ……なんでもありません!
さぁ、早くお乗りください!
すぐに出発しますわ!」
マイスは慌てて馬車に戻る。
俺も御者に一礼してから乗り込んだ。
内装はとても豪華で、座席は座り心地が良い。
この中なら学校に着くまでひと眠りできそうだ。
ソフィアと随分遅くまで話をしたからなぁ。
「ウィルフレッドさん、今日からお願いしますわ!」
「ええ、こちらこそお願いします」
「まぁ……口調が固くなってますわ」
「あっ、悪かったよ、マイス」
「そうそう、その調子でお願いします」
マイスは満足そうに微笑む。
こうして、彼女たちが通う英雄学校へ行くことになったわけだが……果たしてどうなることやら。
俺にはまったくこの先どうなるか分からない。
だからこそ、面白い。
きっとみんなを笑顔にするようなイベントが待ち受けていることだろう。
ソフィアも、マイスも、俺が笑顔にしてみせる。
……楽しみだ。
第一部はここで終了です。
ここまでありがとうございました。
第二部は今週末(10/2)から連載を再開します。
それまでしばしお待ちください。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。
今後の更新予定について活動報告を更新しますので、そちらの方もよろしければご覧ください。




