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37 ☆をあなたに 後編

「五百万⁉ そんなのとても……」


 顔を青ざめる店主。

 頑固おやじとして地域では有名で、町内会にも必ず顔を出す人望のある人だった。


「うちの経営状況じゃ……そんな……」


 泣きそうな顔になる奥さん。

 俺が店に入ると必ず笑顔で挨拶してくれて、手作りの糠漬けを内緒でサービスしてくれた。


「そうですよね……僕もちょっと高いと思います……はは」


 俺は申し訳なさそうに苦笑いをして頭をかく。


「じゃぁ……ちょっと考えてみてください。

 僕はこれで失礼しますね……」


 俺はさっさと店を後にして、状況を上司に報告。

 しばらく間を置いてから様子を見に行く。


 すると、俺の姿を見たとたんに救世主を見つけたような表情になる店主と奥さん。ここ数日の間に劇団による揺さぶりが行われ、彼らは不安になっていたのだ。


 揺さぶりと言っても、やることは単純。

 大声でネットの悪評を店の中で叫んだり、いたずら電話をかけたり、周囲に悪評を言いふらしたりと。

 複数の人間で数日間それを行うだけで、てき面に効果が表れる。


 その店の店主と奥さんも快く俺の提案に乗ってくれた。

 100万ほど値引きしたのも大きいが……何より効いたのは……。


「ごめんなさい……僕が……僕があまりに不甲斐ないせいで……。

 こんな大金を支払うことになってしまって……」


 店主と業者の間に入って交渉していた態を装い、俺は自分の力不足を悔いるふりをして同情をこう。涙をぽたぽたと流して嗚咽を漏らす俺を前に、二人は何も言えない。


「いいんだよ、あんたはよくやってくれた」

「本当にありがとね、本当に……」


 二人もつられて涙を流す。


 俺は泣きじゃくるその顔の裏でほくそ笑む。

 上手くいったな……と。


 しばらくして、別の劇団のメンバーをエージェントとして連れて行き、契約書にサインさせる。金は現金で受け取ることもあれば、振り込みで済ますこともある。

 無論、振込先の口座は多重債務者に作らせたダミー。

 組織には闇金融に関わる部門も存在するので、回線や口座が簡単に手に入る。


 契約の際に必ず俺は「大丈夫です、安心してください。必ず何とかします。僕を信じて下さい」と繰り返し伝えた。

 このセリフは何度も練習させられ、表情の作り方のレクチャーも受けた。

 鏡の前に立ち、最高の笑顔でこの言葉を吐いていると、本当に大丈夫な気がしてきた。


「絶対に大丈夫です。僕を信じて下さい」


 俺の言葉に二人は完全にほだされ、嘘の契約書にサインをしてしまった。


 契約後も俺は何回か店を訪れ、進捗を報告する。

 その都度、俺は言うのだ。「絶対に大丈夫です、僕を信じて下さい」と。


 ☆の数は日に日に回復していき、顔を合わせるたびに二人の顔が明るくなっていく。あまりにテンションが違い過ぎるので、彼らの姿を見て思わず笑ってしまった。


 二人はスマートフォンで複数のレビューサイトやマップアプリを閲覧し、店の評価が回復するのを見て喜んでいた。


 低評価をレビュー付きの☆5評価に付け直すだけなので、評価の操作は簡単に行える。☆2だった評価は☆4後半まで回復し、好意的なレビューが沢山ついていた。

 二人は実に嬉しそうに画面を見つめる。


 俺はそれを見て幸せな気分になる。

 ああ……良いことをしたなと心の底から思うのだ。

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