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35 ソフィアの部屋

「ごめん、今日は無理だよ。でも……」

「数日間、ゆっくり考えてから……かな?」

「え? ああ……うん、まぁ……」

「それなら良かった」


 彼女はにっこりとほほ笑む。


「ねぇ……本当にいいの?」

「良いも悪いも、何もしなかったら死んじゃうからね。

 他に選択肢なんてないよ」

「そうか……」


 心の底では嫌なんじゃないか?

 本当はウィルフレッドのことなんか好きでも何でもなく、アルベルトに言われて仕方なく彼の相手をしていただけかもしれない。


 好きでもない男に抱かれるってどんな気分なんだろ?

 俺が女だったら死ぬほど悩んでるかもしれない。

 まぁ……死ぬよりはましだと思うけどさ。


「じゃぁ……そろそろお部屋に行きましょうか」

「え? ああ……そうだね」


 今日は一緒に寝ろと言われたけど、別に今夜ことに及ぶ必要はない。俺は俺の寝室で……いや。

 ファムのことが気がかりだな。あいつに寝首をかかれかねない。彼女と一緒の部屋の方が安全だろう。


 俺はソフィアについて行くことにした。


 彼女は屋敷から離れ、庭の端へ向かって歩いて行く。どうやら彼女の寝室は別棟にあるようだ。


 しかし……周囲にそれらしい建物は見当たらないな。

 いったいソフィアはどこで寝泊まりしているんだ?


 彼女が歩いていく方の先には、小さな小屋があった。

 石造りのそれは小屋と言うよりもほこらに見える。


 扉は頑丈な鉄製。ソフィアはそれを両手でゆっくりと押して開く。


「手伝うよ」

「あっ、触らないでください」

「え? あっつぅ!」


 鉄の扉はやけどしそうなほど熱かった。


「え? なんで⁉」

「私が少しでも力を入れると、熱が生まれるの。

 この扉は私が触っても燃え尽きないよう、

 アルベルトさまが特別にあつらえてくれたものなんだ」

「へぇ……」


 ちょっと扉を押すだけで熱を?

 普段から苦労してるんだろうなぁ。


 しかし、そうしたら着てる服なんてどうなる?

 すぐに燃え尽きちゃうだろう。


「でも……どうして服は無事なの?」

「全身から熱が出るわけじゃないんだよ。

 指先とか、つま先みたいに、体の端っこから特に出やすいの。

 服が自然に燃えちゃうことは稀かな。

 あっ、でもたまに燃えちゃうけど」

「…………」


 やっぱり燃えちゃうんだ。


「さぁ……どうぞ。私の部屋へようこそ」


 ソフィアは先に行って入室を促す。


 部屋の中には照明がなく、小さな窓から差し込む月明りだけが頼りだ。


「おじゃましま……えっ」


 俺は言葉を失った。


 そこにあったのは棺桶だ。

 人が一人入れるサイズの鉄でできた小さな箱。

 それが地面の中に埋め込まれている。


 蓋はついていない。

 棺桶のような形状をしているが、用途は死者を安置することではない。

 これを使うのは……。


「これ……私の寝床なんだ」


 ソフィアが小さな声で言う。


 これが……寝床?


 棺桶の周りには石が敷き詰められている。別に高価でもなんでもない、そこらへんにで拾ってきたような石を、形を整えて床に敷いているのだ。

 他に……目につく物は何もない。

 あるのは地面に埋め込まれた棺桶だけ。


 これが……ソフィアの部屋なのか?


「なっ……なぁ……本当にこんなところで……」

「うん、だって仕方ないよ。

 私、寝てる時に暴走して、

 何もかも燃やしちゃうことがあるんだ。

 だから……」


 アルベルトはこんな子を俺に抱けと言ったのか。

 ここまでくると……かなり意味合いが変わって来るぞ。


 子供を作るにしても、相方は命がけだろう。

 あれは結構な身体の負担になる。

 もし行為のさなかで彼女の性器が熱を持ったら……。


 ひゅん。


 なぜか睾丸が縮こまる。

 高所に立たされるのとは違った恐怖心を覚えた。


「じゃぁ、一緒の部屋には寝られないね」

「……そうだね」

「あのさぁ……俺……」

「…………」


 ソフィアは俺をじっと見る。

 彼女は今までとは違う顔つきになっていた。


 瞳は光を失い、感情がない。

 無表情でのっぺりとした顔つき。

 しかしどこか力強さを感じさせ、口元は固く結ばれている。


 下手なことを言えば、彼女を怒らせてしまうかもしれない。

 そう思った俺は最善を心がけようと決めた。


「安心してくれ。絶対に大丈夫だから……俺を信じろ」


 俺は彼女にやさしく声をかける。


 俺はその言葉で大勢の人間を騙した。

 この世界へ来る前に。

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