34 ☆なんて見たくもねぇ
食事を終えた俺はソフィアを誘って散歩をすることにした。
今後のことを二人っきりで相談しようと思ったのだ。
すでに日はとっぷりと暮れ、空には月が昇っている。
今日はとてもいい天気で雲一つない。
「星が……きれいだね」
空を見上げて呟くソフィア。
☆なんて見たくもねぇ。
ナーガとゴロネイルが改造中の庭はあちこち掘り返されて酷い状態。昼間眺めた時とは全く違う光景が広がっていた。
彼らが雇った庭師はどこかへ引き上げて行った。
明日また作業の続きをしに戻って来るだろう。
「あの……ソフィア……本当に君はいいの?」
俺は歩きながら尋ねる。
「えっと……さっきも言ったけど、いいよ。いつでも。
もしウィル様が望むのなら今夜でも」
「ううん……」
彼女は俺を受け入れるつもりでいる。
しかし……。
「何度も言うけど俺は……」
「うん、分かってるよ。
中身は別の人なんだよね。
でも……」
ソフィアは頑なに俺をウィルフレッドだと信じ続けている。それはいったい何故なのか。問うたところで答えが返ってくるわけでもなく。
俺はただ彼女の言葉を受け入れるしかない。
彼女にとって俺は本物のウィルフレッドなのだ。
「そうか……分かったよ。
さっきの話だけど……」
「驚いたけど、なんとなく察してはいたよ。
学校の先生やたまに様子を見に来る役人の態度とか見てたら、
私がどんなふうに扱われるのか想像はできた。
でも……さすがに爆弾はないよねぇ」
などと、彼女は取り乱すことなく落ち着いた様子で言う。
さすがに達観しすぎだろ。
「あのさぁ、もうちょっと怒ってもいいんじゃないの?
生きた人間を爆弾扱いだなんて、あまりに酷いよ。
ホント……この国の人が何を考えてるのか理解できない」
「そうかな?
私の力を上手く使うとしたら、
そうするのが一番じゃない?」
「…………」
なんでこんなに聞き分けが良いんだ。
普通だったら発狂するだろ。
「俺はそう思わないけどな。
いくらでもやりようがあるだろ。
それに……ソフィアは普通に戦った方が役に立つ」
「本当にそう思う?」
ソフィアは足を止めて俺に尋ねる。
「ああ……思うよ」
「でも私、いまだに力をコントロールできてないんだよ?
今日だってお屋敷に穴をあけたし……」
「いや……あれは……」
あれは俺がLUKの力を消費してそうさせたからだ。
別にこの子が悪いわけじゃ……。
「私……ここへ来るまで、ずっと一人だった。
誰も私を信じてくれなくて、近寄ってすら来ない。
当然だよね。
近づいただけで全部燃やしちゃうんだから」
確かにそう考えると怖い。
近づくものみな傷つけるみたいな。
「だけど……アルベルトさまは、そんな私を助けてくれた。
何度も迷惑かけたけど、その度に笑って許してくれて。
私の頭をなでてくれた。
私に触れるって、それだけで大変なのに……。
何度もなでてくれた」
「ウィルフレッドさんも?」
「ううん、ウィル様は怖がって近づこうともしなかったよ」
そんなやつを好きになったのか、この子は。
「でも……」
「…………」
「少しずつ私を受け入れてくれた。
私に興味を持って、知ろうとしてくれた。
拒絶しないで傍にいてくれた。
だから……」
ソフィアは俺をじっと見る。
「だから私はウィル様が好き。
私にとってとても大切な人だから……」
彼女はそっと俺のほほに手を当てる。
ウィルフレッドの身体はソフィアよりも少し高いくらい。
彼女は背伸びをするまでもなく、俺のほほに手が届く。
微妙に暖か……熱いな。
普段から体温が人より高いんだろう。
50度くらいありそう。
「ねぇ……ウィル様」
「…………」
「私のこと、抱いてくれるかな?」
「…………」
彼女の問いに俺は沈黙する。
俺は……。




