表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/206

33 最悪の最悪

「私は……いいよ」


 うつむき加減の彼女は両ひざに置いた拳をぎゅっと握り締め、殊勝にもアルベルトの要求に応じる。


「本当なのか⁉ だって俺は……」

「うん……分かってる」


 彼女は俺の方を向いて視線を合わせる。


「アナタがウィル様とは違う存在だって、頭では分かってる。

 でも私には……今のアナタがウィル様だとしか思えない。

 変だと思うけど……私にとってあなたは本物なの」

「ええっと……」


 偽物だと分かっていても、本物だと思ってしまう。

 大きく矛盾しているようではあるが、彼女は心の底からそう思っているらしい。

 つまり……。


「だから……もしあなたが望むなら……。

 私は全てを受け入れてもいい」

「それはつまり……」

「うん……そう言うことだよ」


 つまり、どういうことだってばよ?


 まぁ、気づかないふりをするのはやめよう。

 彼女はいつでも俺を受け入れるつもりでいる。


 ……うーん、覚悟が違うわ。


 ソフィアはアルベルトの求めにオーケーしたわけだが、それで素直に「はい、そうですか」と受け入れるわけにはいかない。

 俺にも選択する権利があるのだ。


「ソフィアさんはこう言っていますが、僕は同意しかねます。

 いきなり子供を作れと言われても受け入れられません。

 彼女にだって学業が……」

「ふむ……そういえばまだ説明していなかったか」

「……え?」


 アルベルトはやれやれと言った様子で肩をすくめる。


「もう少ししたら……ソフィアは戦場へ送られる。

 彼女が戦地へおもむけば、生還するのは難しいだろう。

 だから……」

「彼女が妊娠すれば、兵役が免除されると?」

「そう言うことだ」


 ううむ……これはまた難しい問題になってきたな。

 でも、ソフィアなら生きて帰って来れそうな気もするが。


「そんなに厳しい場所へ送り込まれるんですか?

 炎獄のスキルでも生還が難しいと?」

「この国の上層部はソフィアを人間爆弾として使うつもりだ。

 飛竜に乗せて彼女を敵国の前線基地へ運び、そのまま……」

「……嘘だろ」


 人間爆弾って……そんな。


「あはは……やっぱりそうなっちゃうよね」


 苦しそうに笑顔を作るソフィア。

 この子は……今まで何も知らされていなかったのか?


「そんな……あんまりでしょう。

 絶対に助からないじゃないですか……」

「ああ、そうだ。だから彼女を孕ませる必要がある。

 君たちが何人も子供を作れば、その度に計画は先延ばしにされる。

 やがて国もソフィアに興味をなくすだろう」

「でも……生まれて来た子供たちは……」

「未来のことは後で悩めばいい。

 今はソフィア君の命の方が大切だ」


 なんだか俺の中で倫理観がすごい勢いで壊れていく。

 やべぇってレベルの話じゃない。


 望まぬ妊娠に人間爆弾。

 考え方がきつ過ぎて理解が追い付かない。


 俺はなんて答えればいいんだ?


「うう……」

「何も答えられないか?」

「少し……考える時間を頂ければと……」

「では、ゆっくりと考えるといい。

 しかし……あまり時間は残されていない。

 できるだけ早めに頼む。

 でないと……」

「…………」

「私がソフィア君を抱くことになってしまう。

 それだけはなんとしても避けたいのだ」


 そう言うアルベルトは、とても重苦しい表情をしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いや、なんか凄いなこの世界感。 何気ないアルベルトの言葉。 道徳と道徳のせめぎ合い。 それだけのテーマを主軸に据えるのではなく使い捨てのように使う作者。 そう考えると、他にもサラリと流され…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ