30 その通り、私には何もできません
「ええっと……」
気まずそうに顔を背けるソフィア。
「嫌い……ではないかな」
だろうね。
☆5満点評価だもんね。
「じゃぁ、なんであんなに仲が悪いの?」
「それは……あいつが喧嘩売って来るからで……」
俺が最初にマイスとあった時に、この子から攻撃を仕掛けたような気がするのだが……あれは幻だったのか?
「そっかぁ……マイスに意地悪されてるのかぁ」
「いや、意地悪とかはなくて……その……。
別にさぁ、変なことはされてないんだけどね?
学校でも私の所へ嫌味を言いに来るんだよ。
仲間を引き連れてさぁ」
まるで物語の悪役だな。
マイスは見た目こそきつそうだが、性格は悪くない。
そんなことするとは思えないのだが……。
というか、ソフィアの口調が柔らかくなっている。
あれこれ話しかけたのが良かったのかな?
「なぁ……以前は俺とこんな風に話してた?」
「え? あっ……すみません」
「いや、責めてるんじゃなくてさ。
できればもっとフランクに接してほしいんだよ。
俺も固い態度のままだと疲れるし。
お互い気楽にやろうよ」
「そっ……そうですね……あっ、違う。そうだね」
下手に意識させたらダメだな。
もっとテキトーに接していこう。
そうすればソフィアとの距離感もなくなるはず。
別にこの子と仲良くする必要はないのだが、フィルフレッドが戻って来るとは限らないので、良好な関係性を保っておくのがベストだろう。
以前のウィルフレッドはこの子とどう接していたんだろうな?
幼馴染なのに日記では全くと言っていいほど触れられていない。
「ソフィアは今の俺を見て、どう思う?」
「どうって……ええっと……」
返事に困るソフィア。
「いや、単に印象を聞きたかったんだ。
以前のウィルフレッドさんのように、
人として正しく振舞えているのかなって」
「特に問題は無いと思うけど……」
「ならいいんだ」
それを聞いてホッとした。
前世の悪い癖が出ていなかったらしい。
「料理が冷めてしまうから、急ごうか」
「うん……そうだね」
俺はソフィアと共に大ホールへと向かう。
「失礼します」
「ああ……待っていたよ」
俺が扉を開けると、すでにアルベルトとセリカが席についていた。
そして……何故かファムも座っている。
「……おい」
「なんでしょうか、ウィルフレッドさま」
当然のように席についている彼女は、両手にナイフとフォークを持っている。席を立って配膳を手伝うそぶりすら見せない。そんな彼女の態度に突っ込まざるを得なかった。
「お前、メイドだろ。仕事しろよ」
「何を言っているのですか?」
「いや、お前が何言ってんだよ。
食事を並べるの手伝えよ」
「そんなことをしたら大変なことになりますよ?」
何が大変なんだ?
「ウィル、彼女はそっとしておいてあげなさい」
「え? アルベルトさん?」
「いいんだ……ファムは何もしなくて。
彼女にできることはない」
「その通り、私には何もできません」
キリっとした顔でのたまうファム。
何もできないことを自慢気に言うな。
「ええっと……何もできないって本当なんですか?」
「ああ、彼女は戦闘員として雇っていたからな。
メイドの姿をしてはいるが、屋敷の仕事は何もできない」
アルベルトは当たり前のように言う。
「ええっ……本当なのかよ?」
「その通り。私にできるお仕事など何もありません。
私にできるのは敵を排除することのみ。
お世話をしてもらわないと生きていけないのです」
表情一つ変えず言ってのけるファム。
ソフィアが調理をしていたのは、コイツが何もしないからか。
そう言えば……こいつがメイドらしいところを見せたことは一度もない。
コイツがしてくれたのって屋敷の案内くらいか?
「よく平然とそんなこと言えるよな……恥ずかしくないのかよ」
「まったく」
「……そう」
こいつはただの変態じゃない。
変態かつダメなメイド。
変態駄メイドだ。
どうしようもねぇキャラだなコイツ。
頑張ってるぶん、ソフィアの方がまだ救いがあるぞ。
「お料理をお配りしますね」
「ああ、いつもありがとう」
「助かるわソフィアちゃん」
俺がファムとあれこれ言い合っている間にも、ソフィアは淡々と食事の準備を行っている。
早く行って俺も手伝わないと……。
「あっ、ソフィア。俺も……」
「私のはまだですか?」
「…………」
席に着いたまま何もしようとしないどころか、早く配れと要求するファムに、俺は底知れないほどの殺意を覚えた。
コイツ……いつか絶対にぶん殴る。




