3 唯一無二の無能な能力
俺はメニューを開いて、情報を集める。
メニューの項目は全部で五つ。
『お気に入り』『ポイント評価』『評価者確認』『ユーザー情報』『ヘルプ』
それぞれの機能について説明する。
まず『お気に入り』。
これは登録した人間の情報を閲覧できる機能。
ただし、簡単なプロフィールしか書かれていない。スリーサイズや戦闘能力に関わるステータスなどは表示されない。
次に『ポイント評価』。
これは他人にポイントを投入する機能。
☆1から☆5まで五段階の評価を入れることができる。
次は『評価者確認』
対象となる人物に、誰が何ポイント入れているかを知ることができる。
そして……『ユーザー情報』。
つまりは俺のことについて書かれている。
俺はユーザー情報をタップ。
表示された情報を今一度じっくりと眺める。
ユーザー:小日向 聡
年齢:35歳 性別:男性 職業:会社員
俺の前世でのプロフィールが書かれている。
その下には……。
アバター:ウィルフレッド・フォートン
年齢:16歳 性別:男性 職業:貴族
つまりこれは今の俺のプロフィール。
俺が精神をのっとって人生を奪ってしまった人物の情報だ。
アバターってことは、やっぱり小説のキャラクターなのだろうか?
物語の主人公にしてはずいぶんと頼りない身体をしている。
何度か鏡の前に立って自分の身体を確認したのだが、華奢で筋肉が少なく、ひ弱な体つきをしていた。ろくに体毛も生えておらず、すね毛も腋毛も髭も薄い。これで物語の主人公が務まるのだろうか?
ファンタジーの主人公と言えば、ガッチガチの筋肉に無骨な面構えの大男をイメージする。大剣を平気で振り回してドラゴンの首を刎ねるような力がなければ、物語の主人公なんて務まらんだろう。
ウィルフレッド君には主人公を務める素養があるのだろうか?
「…………」
俺はさらに下の方へ画面をスクロールさせる。
次に表示されたのは……。
『ユニークスキル 絶対評価』
これは俺に与えられた特殊能力らしい。
その効果は……。
『誰でも好きに評価できる特別な力! どんどん評価してブルジョワポイントを投入しよう! え? 私が誰だって⁉ それは秘密なのです……ふふふふふ』
俺はメニューを閉じた。
頼りの『ヘルプ』にはろくな情報が書いてなかった。
ハッキリ言って意味が分からない。
なんだよ……『創作家になろうの世界』って。
ここはゲームの世界なのか? 小説の世界なのか?
なんで『なろう』なの?
ここの世界の住人はみんな小説家になろうとしてるの?
思考を放棄してベッドの上に大の字になって寝そべる。もう何も考えたくない。
役に立たないヘルプ機能ではあるが、少しだけ分かったことがある。
まず俺の持つ能力について。
ポイントマスターの固有能力。
それは他人をポイント評価できること。
この世界では全ての住人が例外なくポイントの存在を知っている。誰の目にもあの☆マークが見えているのだ。
しかし、意図したポイントを他人に与えることはできない。その人が相手に抱く感情やお互いの関係性から計算されるらしい。
好意的な印象を抱けば高評価。逆に相手を嫌ったり見下していたりしたら低評価。星の数も自分では決められず、勝手に個数が決まるらしい。
なので、自分の意思に反してポイント評価することはできない。あくまで普段からの関係性が大事ってことだ。
んで……俺だけは自分でその数字をいじれる。
つまりは自分の意思で他人へ与える☆の数を変えられるのだ。
☆1から☆5まで、どんな評価でも思うがまま!
俺が好きな相手を低評価にしたり、嫌いな相手を高評価にしたりできる。これが唯一無二のユニークスキル:ポイントマスター。
「…………」
あの……言っていい?
死んでくれねぇかな、神様。