24 やるか、やらないか
「いっ……意味が分かりませんよ」
俺は座ったまま横に身体をずらして、彼女から距離を置く。
「分かりませんか?
いいえ……あなたも男なら分かるはずです。
中身が別人に入れ替わったということは……。
何をしても記憶に残らないのです。
いつかウィルフレッドさまがお戻りになられても、
今日のことを彼が知ることはありません」
なるほど……そう言うことか。
彼女は思い出が欲しいのだろう。
ウィルフレッドの身体を乗っ取った俺と契りを交わすことで、かりそめの関係を築きたいのだ。
それはいくらなんでも無理がある。本物の愛なんて手に入らない。んなこと、言わなくても彼女は重々承知。理解した上で俺を誘っているのだ。
まぁ……うん……全く理解できないわけでもない。
好きな人の身体の中身が入れ替わって、その別人がやらしてくれるって言ったら、たいていの男はやっちゃうだろうな。俺もやっちゃうかもしれん。
ファムはそう言うノリで誘ってきているのだろう。
だが……。
「だとしても、リスクがあまりに大きすぎます。
この身体で誰かと交わったら、
それこそアルベルトさんに顔向けできない。
というか……彼に忠義を尽くすというのなら、
こんな真似したらだめでしょう?」
俺は安全パイをとった。
確かにファムは魅力的だ。正直、エッチしたいかと聞かれたら、したい。乳はでかいし、肌もキレイ。かなりの美形で体つきも最高。やるか、やらないかの二択なら、ノータイムでやるを選択する。
しかし……今の状況で本能の赴くままに行動したら、絶対に後で困る。間違いない。俺の危機管理レーダーがそう言っている。
「大丈夫ですよ、どうせバレませんし」
「でも……」
「ソフィアさんは厨房で夕食づくりの真っ最中。
アルベルトさまと奥様は寝室でくつろいでおられます。
私たちが身体を重ねたとしても、誰も気づきません。
私とサトルさまだけの秘密にしておけば、
構わないではないですか」
彼女は開いた距離を詰め、俺の耳元で囁くように言う。
段々いいかなって気分になって来た。
……こういう時、男って弱い。
別に一回くらい構わないだろう。
どうせ俺はウィルフレッドじゃないんだし。
もう何もかもが面倒くさい。
ソフィアやマイスを傷つけるかもしれないが、仕方ないだろう。俺はウィルフレッドではなくサトルなのだ。
「そうかも……しれませんね。
でも良いんですか? 俺は……」
「ええ、今のアナタはサトルさま。
だから何をしても、構わない。
それはアナタが私にすることも同じ。
アナタが求めるのであれば、なんでもしますよ。
そう……なんでも」
耳元で息を吹き付けられながら聞く彼女の言葉が、あまりに甘美で身もだえする。本能の赴くままに身を委ねてしまえば、嫌なことを全て忘れられるだろう。
そうだ……そうしよう。
でないとこんな世界での生活やってられない。
俺はファムを受け入れることにした。
「分かりました……じゃぁ……」
俺は立ち上がってズボンを下ろした。
「ふふっ、素直ですこと」
彼女は俺の下腹部に目を向けてクスリと笑う。
すでに息子は臨戦態勢。
下着の上からでもどうなってるのかが分かる。
「えっと……でも、あんまり自信なくて……」
「それは私も同じです。なにせ初めてですから……」
……え?
初めて?
そんなバカな。
結構な年齢に見えるが、いまだに処女なのか?
にわかには信じられない。
まぁ……経験なんて人によるからなぁ。
彼女も複雑な人生を歩んでいるようだし、そう言う機会がなかっただけなのだろう。
だとしたら……こんなに積極的にアプローチしてくるのは変だな。本当に未経験なのか?
「それでは私も」
ファムは立ち上がってメイド服のボタンをはずし始める。すると……。
ごとり。
ファムが何か落とした。




