22 もうポイントはこりごりだよ
「はぁ……疲れた」
脱力した俺はベッドの上で仰向けに倒れこむ。
マイスを見送り、ソフィアをなだめ、玄関を掃除して、あれこれとしているうちに夜になった。
もう少ししたら夕食の時間だが、何も口にする気になれない。
はぁ……壊れてしまいそうだ、頭おかしくなる。
人間が五段階評価される悪魔的発想の世界。
こんな場所で暮らしていたら、一か月もたたないうちに頭がぶっ壊れる。誰か俺を助けてくれ。
しかし、どんなに嘆いたところで救いの手が差し伸べられることはない。
自力で何とかしなければ。
当面は、マイスの斡旋してくれた仕事を頑張ろう。ウィルフレッドが身を寄せる住処も探さねばならん。
勝手が全く分からないこの世界で、俺はどう生きていくべきなのか。今のところ、見通しは立っていない。
「…………」
俺は身体を起こして鏡を見る。
ウィルフレッドの部屋には、立派な装飾が施された姿見が置かれている。
改めて彼の姿を見ると……実に情けない。覇気のない顔つきに、小柄で華奢な体躯。とても歴戦の英雄の息子とは思えん。
鏡の中にある彼の頭の上には星のマークがない。どうも、この世界の評価は自分では確認できないようだ。
自分の評価数値を知るには他人から聞く必要がある。そのため、時々刻々と変化する評価数を自分で把握することはできない。
また、総獲得ポイントもステータスでは確認できない。
手持ちのポイント数を知るには教会へ行く必要がある。教会には修道士がいて、総獲得ポイントと残りのポイント数を教えてくれる。ポイントをステータスに変換するのも教会でしか行えない。
随分と面倒な仕様だ。
なんか頭の中でポイント、ポイントと繰り返していると、それだけで脳が疲れてくるな。できればもう頭の上の☆は見たくないし、ポイントのことについても考えたくない。
俺は何も考えず、ぼんやりと天井を仰ぎ見る。
この世界から脱出する方法ってないのかな……。
「失礼します」
「え? うわぁ⁉」
突然、ファムが現れた。
「ノックもしないでいきなりなんだ⁉」
「いえ、少々お疲れのようでしたので。
ちょっと励まして差し上げようかと」
励ます?
俺に気を使ってくれるのか?
「ええっと……どうしてですか?
だって俺は……」
「ええ、ウィルフレッドさまとは別人。
異世界から来たサトル・コヒナタ。
アナタは以前のアナタとは別人です」
「…………」
俺がウィルフレッドとは別人だと認識しているのに……なぜ。
「そこまで分かっていて……どうしてですか?」
「中身が別人だったとしても、
今のアナタはフォートン家の嫡男ウィルフレッド。
私が仕えるべき存在に変わりありません」
「ですけど……もうファムさんは……」
彼女も近いうちに職を辞するはずだ。
屋敷を追い出されるフォートン家に彼女を雇う余裕はない。
「いえ、たとえこの屋敷を追い出されようと、
私はアルベルトさまにお仕えするつもりです。
それだけの恩がありますので……」
「そうですか……」
「さて、サトルさま」
彼女は俺を前世の名前で呼んだ。
「夕食までまだ少し時間がありますので、
あなたを癒して差し上げます」
「癒すって? どうやって?」
「それは……」
ファムはゆっくりと立ち上がる。
すると彼女はスカートをたくし上げ、下着を露出させた。
パンツの色は黒だった。
「え? ええっと……なにを?」
混乱する。
彼女は何をしようとしているのか?
意味が……。
「お伝えした通り、あなたを癒して差し上げます。
私の身体を使って……ね?」
彼女はそう言いながら下着を下ろした。




