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21 一枚上手なご令嬢

 つん……じゅっ!


「あっっっつぅ⁉」


 彼女の触れた指先は想像もできないほど熱かった。たまらずに悲鳴を上げて鼻を押さえる。


「ウィルフレッドさん⁉ ごめんなさい!」

「おーっほっほっほ!

 やっぱりソフィアはダメな子ですわ!」

「マイス⁉ こうなるって分かってたの⁉」

「とうぜんですわ! まんまと引っかかって、かわいらしい!」

「このぉ! んぎぎぎぎぎ……!」


 顔を真っ赤にして歯を食いしばるソフィア。

 心なしか周囲の気温が上がったような気が……いや、気のせいじゃねぇ。マジで熱くなってやがる。


「ゆるせない!」

「またわたくしと戦おうというの?

 ウィルフレッドさんが黒焦げになってしまいますけど、

 それでもよろしい?」

「ううっ……ぐぅ!」


 マイスの言葉にぐぬぬ顔になるソフィア。


 この二人、対等なようで対等ではない。

 マイスはソフィアの扱いを心得ているようだ。

 完全に彼女のペースに巻き込まれている。


 普段から二人はこんな感じで絡んでいるのか?

 だんだん関係性が見えて来たような気がする。


「それはそうと、ご報告がありますの。

 ウィルフレッドさんは正式に、

 わたくしの秘書になることが決定しましたわ。

 そのことについて、お知らせいたします」

「え⁉ なんで⁉ 断らなかったの⁉」


 目を大きく開いて俺を見るソフィア。

 さっきオファーを受けるって言ったでしょーが。


「いや……だってさぁ……お金だって欲しいし」

「そんなの私がいくらだって稼ぐよ!

 戦争に行って敵をやっつければいいんでしょ⁉」

「あらあら、むきになって可愛らしいこと」


 くすくすと口元に手を当てて笑うマイス。

 ソフィアはほっぺを膨らませて彼女を睨みつける。


 いや……睨んではないな。

 不満そうに見ているだけ。


 超人的な強さを誇る二人は恐ろしいまでの力でぶつかり合う。周囲を巻き込んで滅茶苦茶にするので、できれば争ってほしくない。

 しかし……それなりに仲が良いのではと思う。今のところ、暴走しそうなソフィアをマイスが上手くコントロールしている。

 案外、いいコンビになるんじゃないかな。


 いや……もうなってるのか?


「今日はこんなところで失礼しますわ。

 明日、馬車でお迎えに上がるので、玄関で待っていてください。

 服装はいつも通りのラフな格好で構いませんわ」


 両手を合わせてマイスが言う。


 本当にラフな格好でいいんだろうな?

 ドレスコードとかねぇだろうな?

 色々と心配なんだが……。


「それと、ソフィア。

 アナタも一緒に馬車に乗せてあげてもよろしくてよ」

「冗談、絶対いや」

「あら、どうしてですの?」

「だって、私。

 英雄学校へ行くときは走って行くって決めてるから」

「まぁ……まだあの取り決めを守っているの?

 信じられませんわ」


 あの取り決め?

 なにかあったのかな?


「あの……取り決めって何ですか?」

「ウィルフレッドさん」

「え?」

「……口調が」


 しまった、また改まった言葉遣いになっていた。

 ううん……どうも調子が合わせづらい。


「うっ……うん。ごめんね」

「まだちょっと硬いですが、まぁいいでしょう。

 取り決めとは、わたくし達の間で交わした約束ですの。

 毎朝、必ず走って登校すること。

 この子が入学当初にわたくしに喧嘩を売って来たので、

 決闘することに致しましたの。

 言うまでもなく勝者は……」


 その決闘にソフィアが負けて、毎朝走って登校することになったと。

 彼女は律義にそれを守り続けているのか……。


「ふんっ! あんなの負けた内に入らないから!

 絶対に認めないから! バーカ!」

「そう強がらなくてもいいですわ。

 もう走って学校へ行く必要はありません。

 今はある程度、力をコントロールできるのでしょう?」

「…………」


 力をコントロール?

 そのためにランニング登校をさせてたの?


 もしかしてマイスって……。


「さて、そろそろ良い時間ですので、

 失礼させていただこうかと思いますわ。

 それでは、ウィルフレッドさん。

 明日からよろしくお願いしますわ」

「はい……え?」


 マイスは俺のほほに口づけをする。

 思わず彼女の方を向くと……。


「ふふっ……さきほどはもっと濃厚なキスをしたのに、

 この程度でも顔を赤らめてしまうのですね」

「え? すっ……すみません」


 気恥ずかしかったからか、顔が熱くなる。

 俺もこの人に良いように扱われているな。


「ちょっとー!」


 不満そうにほほを膨らませるソフィア。

 彼女もマイスには勝てそうにない。

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