205 第四章完っ!!!
反省会を終え、俺たちはマイスとソフィアを探しに学校へ向かう。
街から学校まで結構な距離があるんだよなぁ。
もっと時間を短縮できたらいいんだけど。
馬車に乗っても、歩いてもあまり時間は変わらない。
時間を節約するには走った方がいいとファムから言われ、体力づくりもかねて学校までジョギングすることにした。
ファムはメイド姿でも身軽だ。
俺がぜぇぜぇ息を切らしているのに、彼女は汗一つ書かず、息も切らさない。
めっちゃ体力あるよなコイツ。
俺は10分ほど走ってギブアップ……なんて許されなかった。
ファムは何度も執拗に俺の尻を蹴り上げ、足を止めるなと言ってくる。
おかげで学校へたどり着くと俺はすっかり疲れ果て、へとへとになってしまった。
「ハァ……ハァ……もうだめぇ」
「そんな体たらくでどうするんですか?
ダンジョンに潜ったら休んでる暇なんてありませんよ」
「わっ……わがっでる」
学校の前で四つん這いになり、呼吸するのもやっとな状態になる俺。
ファムは腰に両手を当てて、やれやれと頭を横に振る。
「サトルさま……もう少し頑張ってもらわないと」
「げっほっ! ごべぇん!」
「これでは先が思いやられますね」
ウィルフレッドの身体は本当に軟弱だ。
少し走っただけでこれ。
もともと運動も得意ではなかったのだろう。
実は俺自身も、あまり身体を動かすのは好きではない。
前世ではジム通いなんてしてなかったし、学生時代は帰宅部。
運動とは全く縁がない人生を送って来た。
こんな調子でダンジョン攻略に臨もうと言うのだ。
ファムが飽きれるのも無理はない。
「私はダルトンさんたちの所へ行ってきます。
サトルさまはマイスさんとソフィアさんを探して下さい」
「ああ……分かったよ。
でも、ダルトン達がどこにいるのか分かるのか?」
「ええ、私にはこれがありますので」
自分の周りにいくつか“影”を生成するファム。
「目星をつけた場所の音を拾えば、
おおよその見当がつきますので」
「本当にすごく便利だよな、そのスキル」
「ふふっ。よく言われます」
クスリと笑うファムは、足元に生成した陰に自分の身体を飲み込ませ姿を消す。
もう二人がどこいるのか分かったらしい。
そう言えばコイツ。
いつも突然、俺の傍に現れていたけど……小さな影で俺の場所を特定してたんだろうな。
つまり常に彼女の監視下にあったわけだ。
カテリーナの時もそうだったけど、俺のプライベートは全て彼女に筒抜け。
死ぬほど気持ち悪いし最悪な気分なんだけど……やめろと言っても無視するだろうし、どうしようもない。
はぁ……悩んでいても仕方がない。
気を取り直してさっさと動こう。
俺はマイスとソフィアの二人を探す。
生徒たちから話を聞いても知らない、見てないと言われるばかり。
あの目立つ二人を誰も見かけていないとなると、学校にはいなさそうだな。
試しに傭兵科の校舎へ行って聞いたけど同じだった。
てか、こんなことしなくてもファムならすぐに見つけられると思うが。
なんで俺が一人で探さなくちゃならないんだ?
「サトルさま」
ファムが現れた。
用事を済ませて来たらしい。
「お二人はすでに申請書類を提出しました。
ですが……書類に不備があったそうで。
明日また提出しなおすそうです」
「え? そっか……分かったよ」
手続するだけでもけっこう面倒なんだな。
なかなかダンジョンへたどり着けない。
これ……ダンジョンに行かないまま話が終わっちゃわないか?
このまま第四章完っ! なんてなったら笑えねぇぞ。
「マイスとソフィアさんは?」
「二人とも学校にいないんだよ。
どこか別の場所にいるみたいで……」
「なるほど……では」
また影をいくつも発生させるファム。
今度はさっきよりも時間がかかった。
「どうやら学校の敷地内にはいないみたいですね」
「じゃぁ、どこにいるんだよ?」
「さぁ……」
ファムは肩をすくめる。
こいつでも検討がつかないとなると、探すだけ無駄かなぁ。
二人で訓練でもしているのかもな。
「マイスのお友達に聞いて来ましょうか?」
「うん……そうしてくれると助かる」
「では」
再び姿を消すファム。
一人残された俺は地面に腰かけてぼーっと空を眺める。
雲がゆっくりと流れていた。
青い空に浮かぶ白い雲。
俺もあんな風にゆっくりすごして――
ひゅんっ!
何かが雲の間を通過した。
かと思うとそこに大きな穴が穿たれる。
え?
なにが起こったの?
空の雲を眺めていると、次から次へと正体不明の物体が飛来。
雲を穴だらけにしてしまう。
これはもしかして……ソフィア?
「分かりましたよ、サトルさま。
二人は近くの山の中で訓練をしています」
ファムが戻って来た。
「あの曇ってソフィアがやったのか?」
俺は空を指さして尋ねる。
「ええ、その通りです。
的の中央だけを狙う訓練を続けた結果、
ソフィアさんはストレスをため込んでしまい、
我慢の限界に達してしまったそうです。
雲を撃って気晴らしをしているみたいですよ」
「そっか……」
ソフィアも頑張ってるんだなぁ。
できれば労いの言葉でもかけてやりたいが……。
「帰ろうか」
「会いに行かなくてもいいのですか?」
「うん……」
ソフィアは訓練に集中している。
マイスも付きっ切りで手伝っているのだ。
邪魔をしたら悪い。
「寂しいけどな……仕方ないよ。
二人だって頑張ってるし。
俺もやることをやらないと」
「そうですね。
では街へ戻って準備をしましょうか」
ファムは影の中からリンゴを取り出して俺に手渡す。
「え? これは?」
「昨日買ったリンゴです。
食料は影の中に格納しておきました。
街へ戻ったらすぐにバートンさんに声をかけて、
ダンジョンへ物資を運びましょう」
「今から? ってことはもしかして……」
「ええ、街まで走りますよ」
「うへぇ……」
また走るのか。
また走るのか。
また走るのか……!
「何をしているんです?
さっさと食べて、さっさと走る。
ほらほらほらほら!」
「いっ……嫌だああああああ!」
ダンジョン攻略は始まったばかり!
ウィルフレッド君のこれからの活躍にご期待ください!
第四章完っ!




