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203 明日には倍にして返します

 翌日。

 ソフィアとマイスは帰ってこない。

 こっちから英雄学校へ行った方が早いな。


 その前に、冒険者ギルドへ行こう。

 バートンの様子を確かめないと。


「今日も頑張ってきてねー!」


 俺とファムを見送るセリカ。

 アルベルトは昨日からずっと眠ったままだ。


 軽く会釈すると、彼女は笑顔でぶんぶんと手を振ってくれた。


 中身が別人になったとはいえ、彼女の中では今でも俺はウィルフレッドのままなのだろう。

 できるだけ息子らしく振舞った方がいいかもな。


 気が重いけど、意識するようにしよう。


「ううっ……胃が重い」

「大丈夫ですか?」

「やっぱり親が子を思う気持ちってさ。

 大きいなって思って」

「そうですね……」


 今まであまり意識していなかったことだが、アルベルトやセリカがウィルフレッドを息子として大切に思っていることを、俺は忘れてはいけない。


 しかし、その気持ちを受け止められるかと言うと微妙なところだ。


「さっそく冒険者ギルドへ向かわれますか?」

「ああ、そのつもりだ」

「あの男は言いつけを守ったでしょうか?」

「さぁ、どうだろうな?」


 バートンは昨日俺が渡した金を使って、好き放題に飲み明かしたんじゃないだろうか。

あれだけの大金を手に入れたのだから、何もしないでいられるはずがない。普段から酒浸りの彼は浴びるように飲んだことだろう。


 というのが俺の予測。


 もしそうだとしたら好都合だ。

 契約書にはこちらが依頼した仕事を放棄した場合、罰金を払うように命ずる文言がある。バートンは大して話も聞かずにサインしていたので、おそらく見落としていたことだろう。


 契約違反を理由に罰金を支払うよう迫れば、今後彼との交渉がやりやすくなる。

 今回は大目に見てやるとか言って貸しを作るのだ。


 もちろん、契約書に物理的な強制力などないので、バートンを従わせるには別の方法をとるしかない。

 しかし、このプロセスを踏むことで、こちらは事前に決めたルールに則って仕事を依頼していると相手に分からせることができる。


 契約違反は許さないが、依頼をきちんと履行している場合は特に文句を言わない。

 そういう関係が築ければ、今後お互いにやりやすくなると思うのだ。


 無茶ぶりをするつもりはないし、仕事をしやすい環境も作るつもりだ。

 バートンが素直に言うことさえ聞いてくれれば、何も問題はない。


 だからこそ……今回、彼が酔っぱらって仕事ができなかった場合は、きちんと落とし前を付ける必要がある。


 俺は意気揚々と旧冒険者ギルドへと足を踏み入れた。


「遅かったな、待ってたぞ」


 なんとそこには物資をまとめて準備万端のバートンの姿が!

 酒なんて一滴も飲んでなさそうな様子!


 コイツ……思っていた以上にまじめな男なのか⁉


「おお……ちゃんと準備できてますね」

「当然だろ、俺を誰だと思ってるんだ?

 やる時はやる男なんだぜ」


 バートンは白い歯を見せてにかっと笑う。

 ちょっと頼もしく思えるぞ。


 彼はテントや寝袋など。

 野営に必要な道具を全てそろえてくれた。

 煮炊きに必要な鍋や調理器具もばっちりそろえている。

 何気にすげー有能だった。


「さすがですね、バートンさん。

 さっそくこの物資をダンジョンまで運んでいただけますか?」

「おう! だが……その前に」


 バートンは懐から一枚の紙きれを取り出す。


「これを読んでくれ」

「え? これは?」


 俺は彼から紙切れを受け取る。

 そこには……。


『私、アルベルトは。

 バートンからお金を借ります。

 明日には倍にして返します。

 アルベルト』


 ……え?

 なんだこれは?


「へへへ、というわけで。

 お父様の借金の肩代わりお願いするぜ」


 ニヤニヤと笑うバートン。

 なんだコイツ……何がしたい?


「いや……あの……状況が飲み込めません。

 これは一体どういう意味ですか?」

「昨日、お前の親父と一緒に飲んだんだよ。

 金を持ってねぇって言うから、俺が貸してやったんだ。

 昨日お前にもらった金をな。

 で……これに一筆書いてもらったってわけだ」


 俺が支払った依頼金をアルベルトに貸して借金させ、俺からまた取り立てようって魂胆なのか?

 だとしたら、あまりに杜撰ずさん


 俺が従うと思っているのだろうか?


「こんな契約書無効です。

 本人が書いた証拠なんてないでしょう?」

「いいや、ここにいる連中が証人だぜ。

 なぁ皆! これはアルベルトの字で間違いないな?!」


 バートンが呼びかけると、たむろしていた元冒険者たちが「おおっ!」と返事をする。


「というわけだ……ウィルフレッドの坊ちゃん。

 俺がアルベルトに貸した倍の額を支払ってもらうぜ。

 もちろん、払わないなんて言わないよな?

 契約書がちゃんとここにあるんだからよ」

「…………」


 素直に従うべきか?

 それともつっぱねる?


 バートンの狙いはなんだ?

 なぜこんな子供じみた真似を?

 だとしてもあまりに用意周到過ぎる。


 アルベルトをはめて酒を飲ませ、金を貸して俺から取り立てることで、なんの得をするというのだ?

 小銭を稼いで満足なのか?


 俺は彼のこの行動に、何かしら意味があるのではないかと感じた。

 ただ金が欲しいだけではなさそう。


 では……本当の狙いとはなにか。


「バートンさん、もしかして……」

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