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202/206

202 ちょっと本気でした

 なにもかもが嫌になった。


 俺はウィルフレッドの両親に、死ぬほど苦しい思いをさせてしまったのだ。

 どうしてもっと早く気づけなかったのかな……。


「そう落ち込まないでください。

 お気持ちは分かりますが……」


 ベッドの上で寝転ぶ俺に、ファムは膝枕をしながら頭をなでなでしてくれる。

 普段だったら絶対にこんなことお願いしないのだが、今は誰でもいいから甘えたい気分だった。


 ソフィアとマイスは学校に泊まるつもりなのか、帰って来る気配がない。

 日が暮れても二人の姿が見えないので、俺は女子部屋に泊まらせてもらうことにした。

 男部屋はアルベルトとセリカが使っている。


「なんでこんなことになったんだろ……」

「私はサトルさまがこの世界へ来て下さって、

 よかったと思っていますよ」

「この身体を好き放題にもてあそべるもんな」

「もちろんそれもありますが」


 あるんだ(笑)


「サトルさまが絶対評価のスキルを使いこなせれば、

 きっとウィルフレッド様もその可能性に気付けるでしょう」

「結局、お前も俺に早く消えて欲しいと思ってるのかよ?」

「いえ……本音を言うと……。

 あの二人には申し訳ないのですが……」

サトルのままの方がいい?」

「はい」


 意外な答えだった。


「へぇ……お前がそう言ってくれるなんて思わなかったよ。

 俺のどんなところに魅力を感じたんだ?」

「機転が利きますし、話術に長け、人望もある。

 なにより周囲の人間の力を引き出すのが上手い。

 好意を抱くのは当然ではないでしょうか?」

「俺に……好意? お前が?」

「ええ」


 ファムは優しく微笑む。


「お前が俺をそんな風に思ってるなんてな。

 意外だったよ」

「不愉快でしたか?」

「普段だったら……な。

 でも今は、そんな言葉に救われる。

 嘘でも嬉しいよ。

 ありがとな」


 俺はなんとなーく思ったことを伝えた。

 すると恥ずかしそうにファムが顔を背けるので、今の言葉が冗談とかではなく、割と本気の言葉だったのだと気づく。


「え? なにその反応。マジなの?」

「ええ、ちょっと本気でした」

「そっかぁ……」


 まぁ、好意を抱いていると言われて、嫌だとは思わないよ。

 それがファムのような美人だとなおさら。


 こいつは散々やらかしてくれたが、一応はまだ一線を越えていない。

 例の性癖についても冗談の範囲でおさまっている。


 今はまだ……な。


「なぁ、最初のアレ、本気だったのか?」

「はい」

「ソフィアがこなかったら、最後までしてた?」

「はい」


 前言撤回。

 こいつ、やっぱりろくな奴じゃない。


「そう言えばさ……。

 マイスとソフィアが変なことを言うんだよ。

 俺が本物のウィルフレッドだって」

「身体ではなく中身が、ですか?」

「ああ……そうだよ。

 俺が別人になったっていうのは全部嘘で、

 本当はウィルフレッドのままなんじゃないかって。

 二人から別々に同じことを言われたんだ。

 ファムはどう思う?」

「ううむ……」


 悩まし気に眉を寄せるファム。

 こいつのこんな表情は初めて見るな。


「正直、私には分かりかねますね。

 あまりウィルフレッドさまと接点がなかったもので」

「好き放題したいって思うくらい好きだったのに?」

「あえて避けていたんですよ。

 自分の欲望を抑えるために」


 よっぽどウィルフレッドが好みだったんだな。


 確かにまぁ……顔は良いよな。

 身体は貧弱だけど。


 ファムはずっとストーカーだけしてたわけだ。

 屋敷の中でメイドらしい仕事はなにひとつしないで。


 なおさら、こんな奴雇うなよって思う。


「なんでメイドになったの?」

「なりたかったから」

「……はぁ?」

「憧れていたのです。

 このメイド服に」


 動機はそれだけか?

 まぁ、別に分からなくもないんだけどさ。


「仕事が何一つできないのに、よくなろうと思ったな」

「アルベルトさまからは屋敷の警備を任されていたので。

 メイドの仕事はできなくても構わないと言われました」


 確かにファムは戦闘面では優秀。

 そこら辺の雑魚なら秒殺できるし、相手がよっぽどのチート野郎でない限り簡単に負けたりしない。格納庫ストレージとしての役割も果たすので、いるだけで便利かもな。

 雇う価値は十分にあると思う。


 これでメイドの仕事ができれば完璧だったんだけどなぁ。


「今からでもメイドの仕事を覚える気はないか?」

「ありませんね」

「これっぽっちも?」

「ありませんね」


 急に真顔になるファム。

 ……だめだコイツ。


「どうしてもだめ?」

「絶対に働きたくありません」

「少しでも努力するつもりはない?」

「絶対に働きたくありません」

「…………」


 絶対に働きたくないですか。

 そうですか。


 ファムの意思は固いようで、真顔のまま同じ返事を繰り返すだけ。

 彼女がメイドとして働く日は永遠に来ないだろう。

 一生駄メイドのまま。


 終わってんなぁ……コイツ。


「少しでもお前を尊敬した俺が馬鹿だったよ」

「ええ、おバカさんですね」


 そう言って額をつつくファム。

 愛おしそうに俺を見つめている。


 ちょっとだけ、彼女を可愛いと思ってしまった。

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