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201 元に戻って

 アルベルトを運んで小屋へ。

 服を脱がせてベッドの上へ転がすと、彼は幸せそうにいびきをかく。

 本当に呑気なものだ。


「あらあら、ごめんなさいね。

 主人は昔っからこうなのよ」


 苦笑いするセリカ。

 この人も苦労したんだろうなぁ。


「確か……お二人で一緒に戦っていたんですよね?」

「ええ、そうね。

 アナタにはまだ話していなかったかしら」


 セリカはベッドに腰を下ろすと、その上で眠るアルベルトを愛おしそうに眺める。


「この人ね、戦う時はいつも一人だった。

 仲間なんていらないって言っていた。

 でも、私と出会って変わったの。

 私が一人だと危ないからってずっと傍にいたら、

 私を守るためにどんどん強くなって……」


 それって一緒に戦ってたって言うのか?


 水を差すような真似はしたくないので、俺は黙って話を聞く。


「それからね。

 アルベルトの周りに仲間が集まり始めたのは。

 きっと皆、不安だったのね。

 死ぬのが怖くて、強い人の傍に身を寄せたかった。

 でも私と出会う前のアルベルトを頼る人はいなかったわ。

 きっと皆、怖かったのね」

「そうですか……」


 怖かった……ねぇ。


 確かにちょっと気難しいところはあると思う。

 素直に頼れるかと言われたら気が引けるかな。


 バートンの勧誘には素直に手を貸してくれたので、慣れればそうでもないって分かると思うが……知らない人からしたら近寄りがたいかも。


「アルベルトさまは強かったですね。

 誰一人として太刀打ちできるものはいませんでした」

「ええ、彼のスキル『絶対勝利バトルマスター』があれば、

 どんな敵も一撃で倒れてしまうわ」


 何気に初めて聞くアルベルトのスキル名。

 名前だけで強そう。


 詳細については分からないが、戦闘になったら強くなるとか、謎エネルギーとかを発生させて敵を倒す系の力なのだろう。

 戦場でも大いに活躍したんじゃなかろうか。


 息子であるウィルフレッドは強力なスキルを継承できなかった。

 あんまり血のつながりとかは関係ないのかな。


 ちなみに、セリカのスキルは『精神干渉』らしい。

 これは相手の心に言葉を使わず話しかける能力らしく、遠く離れた相手ともコミュニケーションが取れるとか。

 場合によっては精神に直接攻撃することも可能で、恐ろしい力の持ち主だったりする。


 まさか……このスキルでアルベルトを手なずけたとかじゃないだろうな?


「確か……私たちが出会ってから少し後に……。

 この人がアナタを拾ってきたのよね?」


 セリカはファムを見て言う。


「ええ、確か」

「最初は男の子かと思ったのだけれど。

 まさかこんな美人さんに育つなんてねぇ」

「お二人にはお世話になりました。

 感謝の言葉もありません」


 よく言うよ。

 中身が違うとはいえ、俺に酷いことをしようとしたくせに。

 こいつの所業を知ったら、セリカはどう反応するんだろうな?


 つまり……俺はファムの弱みを握っているってことになる。

 こいつが俺に何をしようとしたか暴露すれば、駄メイドとしての地位を失うのだ。


 まぁ、今それをするメリットは思いつかないが。


「昔のファムってどんな子供だったんですか?」

「そうねぇ……寡黙で大人しい子だったかな?

 なんでも素直に言うことを聞いたし、物覚えも早かった。

 あと、よくおねしょをしていたわね」

「なっ……んでそれ……を」


 顔を赤らめるファム。


 おねしょかぁ。

 こいつが……。


「へぇ、お前にも可愛い時期があったんだな。

 てか、戦場に一人で出てくる気概があるのに、

 おねしょかよ」

「うるさいですね……」


 恥ずかしそうにするファムだが、セリカに文句ひとつ言わない。


 いつも憎まれ口ばかり叩いて強気だけど、雇い主に対しては強く出られないのか。

 意外な弱点が判明した。


「奥様、この人の前で下手なことを言わないでください。

 ウィルフレッドとは別人。

 異なる世界から来た人なのですよ」

「そう言えば、そうだったわね……はぁ」


 悲しそうな顔でため息をつくセリカ。

 胸の奥がズキンと痛む。


「私ね、いまだに信じられないの。

 私たちの息子が別人になってしまったって。

 もしかして……ずっと嘘をついているのでは?

 そんな風に思ってしまうわ」

「…………」


 そう思いたくなるのも無理はないか。


 中身が全くの別人になってしまいました、なんて。

 息子がそんなことを言い始めたら、とても受け入れられはしまい。


 それが普通だ。


 俺の言葉を真実として受け入れてしまったら、彼女は大切な息子を失うことになるのだから。


「おっ……俺は……」

「あら、ごめんなさいね。

 アナタを傷つけるつもりはなかったの。

 ちょっと……私もナイーブになってるみたい。

 まさかお屋敷を追い出されると思ってなかったし、

 色々と失いすぎたので。

 でも、大丈夫」


 セリカは笑顔を浮かべる。


「私たちの息子は必ず帰って来る。

 そう信じているわ。

 だから……だから一刻も早く、

 元に戻って頂戴ね」


 俺は彼女の笑顔の裏に鬼気迫ききせまるものを感じた。

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