20 お仕置きしますわ
書斎を出た俺とマイスは、元居た談話室へと戻る。
その途中で……。
「ひぐっ……うぐっ……」
階段の踊り場で泣きじゃくるソフィア。
彼女はまだ立ち直れていないようだ。
「ううん……大丈夫かなぁ……ぎっ⁉」
何気なくつぶやくと、マイスが俺の尻をわしづかみにする。
「いっ……いきなり何を⁉」
「大丈夫かなぁではなく、すぐに慰めに行ってあげなさい。
それでも男ですか? この甲斐性なし」
「ええっ……」
また甲斐性なしって言われちゃったよ。
でも……俺がソフィアを慰めに行ってもいいのか?
「あの……マイスさん」
「マイスと呼び捨てにしてください」
「ええっと……マイス。
俺が彼女を慰めても、君はいいのか?」
「何がですか?
もしかして、わたくしが嫉妬するとでも?
はっ! ばかばかしい! わたくしが嫉妬⁉
ありえませんわ! あんな小娘に!
そもそも彼女と私とでは比になりませんの。
同じステージにいると思われるのも癪ですわ!」
「なんですってぇ⁉」
泣きじゃくっていたソフィアは急に立ち上がり、顔を真っ赤に染めて怒髪天を衝く。いきなりテンション変わりすぎだろ……。
「あらあら、もう泣き止みましたの?
随分と都合のいい涙腺をされているのですね。
まさか……ウィルフレッドさんの注意を引くために、
わーざーと泣きまねをされていたとか⁉」
「ちっ……違うもん!」
「だったらそんな直ぐに泣き止むなんて変でしょう。
アナタはいったいどうして泣いていたのかしら?
ウィルフレッドさんにかまってほしかったから、
見つかりやすい場所でめそめそ泣いていたんでしょう。
あらあら、本当に分かりやすい」
「こんのぉ……」
額に青筋を浮かび上がらせるソフィア。
このままだとさっきの決闘の続きが始まりそうだ。
止めておいた方が無難だろう。
「まっ……待ってくれ、二人とも。
俺が悪かったんだ。
さっき泣いてたソフィアを放っておいたから……」
「はぁ⁉」
マイスは俺をギラリと睨みつける。
「いま……なんとおっしゃいましたの?
泣いていたソフィアを放っておいた?」
「ええっと……はい」
「歯を食いしばりなさい」
「え?」
「いいから早くっ!」
大声で怒鳴られ目を閉じる。
これは……鉄拳制裁の流れ⁉
確かに、泣いていたソフィアを放置はしたが……それは俺がウィルフレッドじゃなかったからで……。
しかし、言い訳をしたところで彼女は納得しないだろう。
大人しく殴られてしまおう。
俺は歯を食いしばり、目を閉じる。
すると……。
ぶにゅ。
鼻の頭が指で押された感覚がする。
目を開けるとマイスが人差し指を突き立てていた。
「これで制裁はおしまいですわ」
そう言ってにっこりと笑うマイス。
この人が何したかったのかよく分かんねぇ。
「ちょ……何してんの⁉ 何がしたいの⁉」
混乱したソフィアが声を上げる。
俺も彼女が何をしたいのかよく分からん。
「ちょっとからかっただけですわ。
でも……やっぱり許せませんの。
泣いている女の子を……。
それも普段から仲の良い幼馴染を放っておくなんて。
どうしても看過できませんでしたわ。
だからこうしてお仕置きさせていただきましたの」
「それが……おしおき?」
きょとんとした表情のソフィア。
これの何処がお仕置きなんだろう?
まぁ……殴られなくて良かったけど。
「ほら、ソフィア。あなたも」
「え? 私も?」
「さっさとやる!」
「ええっと……」
すっかり泣き止んだソフィアは俺の方へ来て、戸惑った視線を向ける。そしてゆっくりと人差し指を俺の鼻へと近づける。
なにかすごく嫌な予感がするんだが……大丈夫か?




