199 ファムの父親の知り合い
老人はファムと同じ里に住んでいたエルフの戦士。
と言っても、引退してからだいぶ経つ。
彼はファムの父親と一緒に戦ったことがあり、幼かった頃の彼女を知っている。
というような話を聞かされたのだが……ファムは気まずそうに相槌を打つだけで特に何も言わない。
俺もどうすればいいか分からず、気まずい思いをする。
せめて紹介くらいしてくれよな。
「あの……すみません。お名前をお伺いしても?」
「申し遅れました。私の名はカミラ。
スィフェードの森のエルンで戦士を務めていました。
今は引退して放浪の旅を続けています。
アナタは?」
「僕はウィルフレッド・フォートンと言います。
ファムとは仕事仲間です」
「フォートン? まさか……あのアルベルトさまの?」
名前を聞いただけで連想されるアルベルトの名前。
やっぱり有名なんだなぁ。
「はい……そうです」
「かの大英雄のご子息とお会いできるなんて。
こんな光栄なことがあるでしょうか。
よろしければ握手して下さい」
そう言って両手を差し出すカミラ。
なんかすげぇ腰の低い人だな。
「ああ……どうもです」
「それにしても凛々しい顔立ちをしている。
アルベルトさまとそっくりだ」
「父と面識が?」
「以前に何度かお会いする機会がありました。
リュウジーンさまと懇意にされていましたので」
「リュウジーン?」
「ファムさまのお父様のお名前です」
へぇ……そう言う名前なんだ。
初めて知った。
「ファムさま、今はどんなお仕事をされているのですか?
もしよろしければ私も力になれますでしょうか?」
「いえ……結構です」
「左様ですか」
ファムは俺に意見を求める間もなく断りを入れる。
カミラはしょんぼりと眉を垂らした。
ちょっと……可哀そうだな。
「なぁ、この人も戦士なんだろ?
だったら協力してもらえばいいじゃないか。
どうしてダメなんだ?」
小声でファムに尋ねる。
「私の過去について、詮索されたくないのですよ」
「だったら知り合いなの秘密にしておけばいいだろ。
俺も昔お前に何があったか聞かないからさ。
カミラさんも話を合わせてくれると思うぞ」
「ですが……」
どうしても納得しないファム。
そんなに過去を知られるのがいやなのか……。
まぁ、説得すれば何とかなりそうではある。
カミラの実力がどれほどのものか分からないが、戦力にならないわけではなさそうなので、協力を仰ぐのもありだと思う。
「すみません、実は……」
俺は彼にダンジョン攻略の件と、協力して欲しい旨を伝える。
「ええ、是非ともよろしくお願いします」
「あの……ファムと知り合いだということは、
他のメンバーには内密にお願いします」
「ええ、構いませんが……」
カミラは心配そうにファムを見つめる。
「ファムさま、何かあったのでしょうか?」
「なにも聞かないでください」
「そうですか……分かりました」
取り付く島もない。
カミラは残念そうな顔になるが、それ以上は何も聞かなかった。
「この街の冒険者ギルドの場所は分かりますか?
しばらくはそこで準備をしますので、
連絡が取りたくなったら来てください」
「たしか、ギルドは廃業したと聞いていますが?」
「元冒険者たちと協力できないか模索しているところです。
ギルドの再開も視野に入れています」
「なるほど……さすがはアルベルトさまのご子息。
行動力が違いますな」
アルベルトの名前を出されても、あんまり嬉しくない。
カミラは協力的だが、期待できるか微妙なところだ。
彼の実力がどれほどのものか分からないし、協力的な態度もただの社交辞令の可能性がある。
あまり期待しすぎない方がよさそうだな。
「では、本日はこれで失礼します。
明日冒険者ギルドへお伺いしますので」
「よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
カミラは何度も頭を下げて立ち去った。
この人のこともお気に入り登録しておくか……。
なにげに重要人物っぽいし。
「なぁ……急にどうしたんだよ?
昔の知り合いに会ったって言うのに、
今の態度はないんじゃないか?」
「放っておいてください。余計なお世話です」
そう言うファムはどこか悲しそうな顔をしている。
よっぽど父親との関係を知られたくないんだな。
「分かったよ、お前がそこまで嫌だって言うんなら、
みんなが気にしないようにフォローするから。
安心してく……え?」
彼女俺の手を取ってぎゅっと握りしめた。
その手はぶるぶると震えている。
思わずファムの顔を見る。
泣きだしそうな表情を浮かべていた。
いや……なんだよコイツ。
普段とは別人じゃないか。
どうしてこうなった?
ファムのあまりの変わりように俺も狼狽を隠せない。
いったい彼女の過去に何があったのだろうか。




