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197 おいしい利権

 アルベルトの威光を借りてバートンの勧誘に成功したのは良いけど、肝心の報酬を支払うめどが立っていない。


 今のところ、手持ちの資金は生活費に充てている。

 他のことに使う余裕はないのだ。


 やはり借金するしかないだろうか?

 悩んでいると、ファムはこんな提案をした。


「アナタの実力を見定めたうえで、

 支払う報酬額を極めたいと思います。

 それまで支払いはお待ちいただければと」

「は? 手付金も貰えないのかよ?」

「当面は酒代と食事代のみの負担とさせていただきます。

 アナタが活躍すればすぐに報酬をお支払いしますよ」

「なんでぇ、ケチくせぇなぁ」


 そう言いつつも、バートンは怒って席を立つような真似はしなかった。

 話は最後まで聞くつもりらしい。


「で、どうやって実力を示せと?」

「ダンジョンの10階層まで潜りますので、

 学生たちが安全に探索できるよう守りながら、

 彼らにアドバイスなどをしていただきたい」

「はっ、ガキどものお守りかよ」

「ええ、そうです」


 ファムは表情を崩さず、真面目な顔で返事をする。


「どうしてガキどもを担ぐ必要がある?」


 バートンが問うと、ファムは俺の方へと視線を向けた。

 ここからは俺の領分だ。


 俺はファムに代わって説明を始める。


「今回、大勢の生徒がダンジョン攻略に参加します。

 指導を受けた学生が誰よりも早く最新部へ到達すれば、

 冒険者の経験や技術が役に立つと証明できます。

 もしかしたら、ギルドも再建できるかもしれません」

「そんなにうまくいくかぁ?」


 彼は怪訝そうな顔で俺を見る。


「ええ、絶対にうまくいきます。

 冒険者ギルドを再興して多くの人が集まるようになれば、

 ここも賑わって沢山の金が動くようになるでしょう。

 そうしたらギルドの経営者は大儲け間違いなしです」

「お前らがこのギルドの新しい経営者に?」

「呑み込みが早いですね。

 そういう狙いがあるとご理解ください」

「うーん……」


 俺の言葉を聞いて、バートンは両腕を組んで考え込む。


 冒険者ギルドを再興する計画は少し前から頭の中にあった。

 やはりここの経営利権はおいしい。


 多数の冒険者を囲い込めば、安定した売り上げが見込める。

 登録者が増えれば増えるほど売り上げは増え、仕事を斡旋するだけなのでノーリスク。こんなおいしい話を見逃す手はない。


 ギルド長にはアルベルトを据えるつもりだ。

 彼ならネームバリューもあるし、客寄せにも使える。


 一番の懸念事項は、そもそも冒険者が役に立つかって話だ。

 桧山やコルドのようなチートスキル持ちには太刀打ちできないし、英雄学校の一般性とにも戦闘面で劣る。

 なんの策もなしに冒険者たちをダンジョンに投入しても、散々な結果に終わるだろう。


 だから、そうならないようにサポートする必要がある。


 バートンの加入はギルド再興の試金石。

 彼が活躍できれば、他の冒険者たちもダンジョン攻略に参加するかもしれない。


 冒険者たちをうまく活用する手段を見極め、ギルド再興に繋げるのが今回の目的の一つ。

 ダンジョン攻略自体は割とどうでもよかったりする。


「分かったよ、あんたの考えに乗ってやる。

 でも……ギルドはどうするんだ?

 ここの建物は所有者がすでに……」

「それなら大丈夫です。

 すでに手は打ってあります」


 もちろん嘘だ。

 まったくのノープラン。


 ファムがギルドの経営権について調べておくと言ってくれたので、なんとかしてくれるだろう。

 フォートン家の名前でもなんでも利用するつもりだ。


「そっか……さすがはフォートン家のご子息。

 恐れ入ったぜ」


 バートンは感心したように頷く。


 俺はまだ何もしていないし、なんの準備もできていない。

 それなのにこの反応。

 正直言って、この人チョロいな。


「では、このギルドに置いてある備品を頂戴して、

 ダンジョンの近くに拠点を作りたいと思います。

 お手伝いいただけますね?」

「まぁ……いいぜ、やってやるよ」

「それではこちらの契約書にサインを」


 俺はさっと書類を差し出す。

 バートンは文字が読めないそうなので、俺は丁寧に読み上げて内容を聞かせた。


 大して話を聞いていなかった彼は、あっさりと同意。

 サインの代わりに拇印を押してもらい契約成立。


 やっぱりこいつチョロいわ。


「じゃぁ、今日はこれで。

 あっ、酒代をお支払いしますので……」

「へへへっ、悪いな」

「でもその前に」

「……なんだよ?」


 俺はテーブルに手を置いて、バートンに視線を送る。


「明日からさっそく準備を始めますので、

 あまり飲み過ぎないようにお願いしますね」

「分かってるよ」

「では、お受け取り下さい」


 テーブルから手をさっと離すと、そこには銀貨が一枚。

 酒代にしてはあまりに高額だ。


「おおっ! マジかよ!

 うへへ……やっぱり名家は違うなぁ。

 さすがは天下のフォートン家だぜ」

「お約束、忘れないでくださいね?」

「ああ、もちろんだ!」


 バートンはウキウキした表情で銀貨を受け取る。

 飲みすぎるなと警告したが……果たして彼は約束を守るだろうか?


 もちろん、信用なんてしていない。

 まったくもって、これっぽっちも。


 長年、酒に逃げ続けた男が、今日に限って欲望に抗えるはずがないのだ。

 きっと浴びるように飲んでしまうのだろう。


 そっちの方が、俺としては都合がいい。

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