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195 垂らした釣り針

 翌日。

 早速、俺とファムは冒険者ギルドへと出向いた。


「……また来たのか」


 俺たちを見つけるなり、嫌そうな表情を浮かべるバートン。


「ゲルグさんの手紙、読んで下さいましたか?」

「ああ、もちろん」

「それでも考えは変わらないと」

「当たり前だ」


 バートンはそう言って床に唾を吐いた。

 この様子だとダメそう。


「いつまでここで腐っているんです?

 そろそろ真面目に働かないと、

 本当に性根が腐ってボロボロに崩れますよ」

「うるせぇよ、クソエルフ。

 俺はなぁ、もう冒険者なんてまっぴらなんだよ。

 ゲルグの野郎が何を言おうが関係ねぇ。

 やめたったら、やめたんだ!」


 バートンは勢いよく両手をテーブルに叩きつける。


 その表情には怒りよりも、諦めや悲しみの色が強く出ていた。

 彼自身、自分の可能性に限界を感じているのかもしれない。


「冒険者を辞めてもらっては困ります。

 アナタのスキルの鑑定は非常に強力なスキルだ。

 他に変わりの人なんて見つかるはずがない」

「あ? なんだテメェ。

 何も知らねぇガキのくせに……」


 俺の言葉に反応するバートン。


 垂らした釣り針に食いついてくれた。

 確かな手ごたえを感じる。


「ええ、何も知りませんよ。

 ダンジョンなんて一歩も足を踏み入れたことはないし、

 その攻略がどれほど大変なのかも知りません。

 でも……分かるんですよ。

 鑑定スキルがいかに重要か」

「どうしてそう思う?」

「それは……」


 俺は丁寧に説明する。


 戦いにおいてもっとも重要なのは敵の情報。

 その情報を瞬時に取得できる鑑定は最強のスキル。


 敵の情報があれば、強力なスキルが無くても戦える。

 ダンジョン攻略において他のパーティーに差をつけることができる。


 などなど。


 適当にこねくり回したそれっぽい言葉を、べらべらと口から吐き出す。


 最初は胡散臭そうに聞いていたバートンだが、話を聞いていて次第に気分が良くなったのか「だよな」とか「そうだろう」とか相槌を打つようになった。

 スキルは一人に一つ与えられるモノなので、その人物を構成する要素の一つ。顔や、名前と同じくらい人にとって重要な意味を持つ。

 そのスキルを褒められたら嬉しくないはずがない。


 バートンは俺の話術に乗せられて、どんどん気分を良くしていった。


「分かってるじゃねぇか、テメェ」

「はい、ありがとうございます」


 俺の言葉にすっかりほだされたバートンは上機嫌になっていた。

 今までずっとしかめっ面だったのに、にこやかな表情になっている。


「それで……バートンさん。

 鑑定スキルで得られたモンスターの情報って、

 一種類につきどれくらいで売れると思いますか?」

「え? 売る?」


 きょとんとするバートン。


「ええ、情報を売るんです。

 今まで取引とかで、同業者とやり取りしませんでしたか?」

「いや……モンスターの情報なんて勝手に広まるからな。

 情報を売るなんて考えたことねぇよ」

「でしょうね」


 今までは大勢の冒険者がいて、それぞれが交流を通して必要な情報を集めていた。冒険者ギルドでも各地のダンジョンの攻略情報が頻繁にやり取りされていたはずだ。

 あえて金を出さなくても、他人と酒を飲んでいれば情報を集められる。


 酒は気を大きくさせるし、口も軽くなる。

 たった一杯おごってやるだけで、いろんな話が聞けただろう。

 冒険者ギルドで酒を提供するのは情報交換を円滑にするためだったのかもな。


 普段から冒険者同士でのやりとりの中で情報交換をしていたので、あえて情報を金で買おうとする奴は少数派。

 だからバートンもモンスターの情報を売ろうとは思わなかった。


 しかし、今は状況が違う。

 かつてにぎわっていた冒険者ギルドはなりを潜め、多くの冒険者が廃業状態。桧山やコルドのようなチート持ちが少人数でダンジョンを潰して回る状況がしばらく続いた。


 そんなチート野郎が揃って姿を消し、全く経験のない新しい世代がダンジョン攻略に挑もうとしている。

 彼らは全員がルーキーなのだ。


 なので、ダンジョン攻略のノウハウも知識も何もない状態。

 そんな状況で鑑定スキルを持った者がいれば、他のパーティーに差をつけるアドバンテージになる。

 おまけにそれがベテランの冒険者となれば……。


「俺が……俺が役に立てるっていうのかよ?」

「ええ、むしろライバルが太刀打ちできないくらい、

 大活躍できると思いますよ。

 鑑定スキルはそれだけのポテンシャルを秘めています。

 是非とも僕たちに力を貸して欲しい。

 この通り、よろしくお願いします」


 俺はそう言って深々と頭を下げる。

 隣でファムも同じようにこうべを垂れた。


 あと一押しって感じだが……どうだろうか?

 ちらりとバートンの表情を見やる。


「ううん……どうすっかなぁ」


 腕を組んで悩むバートン。

 しきりに貧乏ゆすりをしている。


 まだ踏ん切りがつかないようだ。


 仕方ない、最終兵器の投入と行くか。

 俺は彼に手伝ってもらうことにした。

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