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193 ナイスファイト

「行くぞっ!」


 ダルトンが距離を詰めてくる。


 彼は接近するとすぐにパンチをぶち込んでくるので、俺は少し後ろに下がって拳を突き出し、距離を置いた。

 しかし、後ろへ逃げ続けることはできないので、こちらからも反撃しないといけない。

 俺はローキックを放つが、脛に当たったところでノーダメージ。

 ダルトンはこちらがいくら攻撃しても全くひるまないのだ。


「オラオラ、逃げてんじゃねぇよ」


 俺を追い詰めながらパンチを繰り出すダルトン。

 一発、一発が非常に重い。

 おまけに的確に痛いところをついて来る。


 俺は何とか耐えながら、チャンスが来るのを待った。

 やみくもに突っ込んで行ってもダメだ。


 俺が奴を倒せるとしたら……。


「らぁ!」


 ダルトンが思いっきり振りかぶって拳を放つ。

 俺はそれを両腕でガードして耐えつつ、奴との間合いを計った。


 今ならいける。


 そう確信した瞬間、身体が動く。


「おわっ⁉ なんだ!」


 俺はダルトンの服をつかんで自分の方へ引き寄せる。

 一歩前へと踏み出し、右足を相手の足へとひっかけてそのまま……。


「うわっ……がっ!」


 ダルトンは背中から地面にたたきつけられ悶絶。

 完全に不意をつかれたようで、苦しそうにしていた。


「そこまでっ!」


 ファムが止めに入る。


 俺はダルトンを大外刈りのような形で投げ倒したのだ。


「やっ……やった!」


 俺は思わず感嘆の声を漏らす。


 まさかここまでキレイに決まるとは思っていなかった。


 ファムが言っていた前回との違い。

 それは俺たちが服を着ていることだった。


 前回はパンツ一枚のほぼ全裸の状態で戦っていたが、今回は服を着ている。服をつかんで投げ技を仕掛ければ、相手を押し倒すことも可能。

 そのことに気づいた俺は柔道の技を試すことにしたのだ。


 と言っても、俺の実力なんてたかが知れている。相手が経験者であればこう簡単には極まらなかっただろう。当たり前ではあるが、柔道のような技はこの世界には存在しない。

 だから……初心者の俺でも彼を倒せたのだ。


「ごほっ! がはっ!」


 苦しそうにせき込むダルトン。

 柔道が存在しないのだから、受け身の心得もないはずだ。

 彼はもろにダメージを受けてしまった。


「大丈夫か? すまん、やりすぎたかもしれない」


 俺は四つん這いになった彼の背中をさする。


「ないず……と」

「え?」

「ナイス……ファイト……」


 顔を上げた彼は俺に拳を突き出す。

 それに拳を合わせて応えると、彼はニヤッと笑った。


「これで……お前も一人前の戦士だな。

 よろしく頼むぜ、リーダー」

「おっ……おお! そうだな!」


 ようやく彼は俺をリーダーとして認めてくれた。


 何度戦っても勝てないと思った相手だったが、ようやく白星をつかむことができた。

 長かったなぁ……本当に。


「良かったですね、ウィルフレッドさん!」


 カテリーナが駆け寄って来る。

 彼女はハンカチで俺の額の汗をぬぐってくれた。

 うれしい。


「おめでとうございます。

 それでは、これで訓練を終了しましょうか」


 ファムが言う。

 やけにあっさりだな。


「もういいのか?

 俺はたった一回勝っただけだぞ?」

「構いません。もともとそういうルールでしたので。

 それに……対人戦闘技能はダンジョン攻略では、

 あまり役に立たないのですよ」

「え? そうなの?」

「ええ、戦うのはあくまでモンスター。

 人間と戦闘になることはめったにありません」


 ということは、たまにはあるんだな。


「じゃぁ、これからモンスターとの戦い方の訓練を?」

「ええ。ただしそっちは実戦で学んだ方が早いです。

 ダンジョンに潜って訓練を行いましょう」


 いよいよ本格的にダンジョン攻略が始まるのか。

 期待と不安が半々だな。


「とりあえず、準備を整えましょうか。

 申請書類を提出して、認可を受けたら、

 ダンジョンの近くに拠点を設営。

 必要な武器と防具を揃えて戦闘訓練を行い、

 まずは10階層への到達を目指します」


 10階層……ねぇ。

 どれだけ達成難易度が高いか分からないけど、ファムがとりあえずの目標として掲げるくらいだから、それほど難しくなさそうだな。


「ダンジョンって何階層まであるもんなの?」

「そうですね……だいたい50から60。

 深ければ100以上になることもあります」

「うへぇ……マジかぁ」


 50くらいだったら何とかなりそうだけど、100超えたらもう無理な気がする。

 よっぽどのチート持ちかベテランでないとなぁ。


「ダンジョン攻略の経験は?」

「若いころにはよくクエストを受注していました。

 何回依頼を受けたか覚えていませんね」

「ってことはよっぽどベテランなんだなぁ。

 単独でクリアしたこともあるのか?」

「レベルの低いダンジョンであればソロ攻略もしましたね。

 ですがやはり……仲間と一緒の方が効率は良かったです」


 やっぱり最後は仲間か。

 まぁ、単独で挑戦するよりも確実だよな。


 ファムはかなり経験があるようなので、彼女の指示に従っていればそれなりに効率よく攻略を進められるだろう。

 魔物との戦い方も熟知しているようだし、安心して攻略に望めそうだ。


 問題になるとしたら、他の生徒かな。

 同じダンジョンを複数のパーティーが攻略するわけだから、途中で対立するかもしれない。

 まさか生徒同士で戦うわけにもいかないし、トラブルになった時はうまく回避しないと。


「なぁ……ファムの姉さん。ちょっといいか?」


 ダルトンが手を上げる。


「対人戦の訓練ってしないのか?」

「ええ、その必要はありませんし。

 万が一の時は私が対処します」

「そっかぁ……」


 ダルトンは残念そうに眉を垂らす。


「対人戦のスキルを身につけたいのですか?」

「いや……その……色々と教えて欲しいなって」

「私に?」

「……うん」


 顔を赤らめて俯くダルトン。


 年上のお姉さんにドキドキする年頃の男の子。

 はたから見る分には可愛らしく思えるかもしれないが、俺には愚かな野兎がトラばさみに向かって前進しているようにしか見えなかった。


「ファム、変な気を起こすなよ」

「ええ、もちろん」


 そう答えた彼女の顔は邪悪なまでに歪んでいる。


 ダルトン逃げろ!

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