188 中心に命中させてほしかった
「よし、じゃぁあの的に攻撃を当てるんだ」
俺はソフィアを連れて演習場へ。
開けた土地の離れた場所に的を設置。
的には円がいくつも書かれた的が用意されている。
アーチェリーや射的で使うような感じのやつだ。
中央の円は大きさが直径3センチくらいしかなく、遠くから命中させるにはかなりの制度が必要となる。
「それじゃぁ、さっそく。
あの的に向かってスキルを発動するんだ。
ただし――」
「わかった!」
どおおおおおおおおおおおおん!
火球を放って一撃で的を蒸発させるソフィア。
どんなもんだいと言わんばかりに、腰に両手を当ててどや顔を浮かべている。
「はぁ……」
俺は額に手を当ててやれやれとかぶりを振った。
「え? ダメだったの?」
「説明は最後まで聞いてくれよ。
的の中心に命中させてほしかったんだ。
的を蒸発させろとは言っていない」
「ええ? どういうこと?」
首をかしげるソフィア。
今の説明で分からなかったのだろうか?
俺は的の中央にある小さな円にスキルを命中させるように伝える。
もちろん、他の部分が焼けこげたら失敗。
中央部だけを的確に居ぬき、その部分だけを破壊するのだ。
「ええ⁉ そんなの無理だよぉ!」
俺の提案した訓練方法を聞いて、ソフィアはさっそく無理と決めつける。
「最初から無理って言ってたら何もできないぞ。
ダンジョン攻略にだって参加できない」
「でっ……でもぉ……」
「でもじゃない、やるんだ。
みんなの仲間入りがしたいって言うんなら、
四の五の言わずに訓練を続けろ」
「うう……分かったよぉ」
ついに訓練内容を受け入れたソフィア。
難しいように思えるかもしれないが、続けていくうちに少しずつ力がコントロールできるようになるだろう。
今までの彼女の戦い方を見るに、力任せに発動して敵を倒すという方法でしか、スキルを扱っていなかったように感じる。
なので、状況に合わせて応用を効かせるには、より精密な力の使い方を覚えて行かなければならない。
標的までの距離は10mくらいに設定。
そこから中央の部分だけを破壊できれば、実戦でも十分に戦えると思う。
仲間を巻き込む心配もなくなるはずだ。
「じゃぁ、頑張れよ。
監督役としてマイスを付けようか。
お願いできる?」
「ええ、お任せください!」
俺の提案を二つ返事で受け入れるマイス。
「それはそうと、マイス。
君もソフィアと一緒に訓練に参加してくれ」
「え? わたくしもですか?」
「ああ、君なら簡単に課題をクリアできるだろ?
ソフィアに手本を見せてあげてくれよ」
「そっ……それは……」
気まずそうに俯きながら、人差し指をちょんちょんと合わせるマイス。
どうやら彼女も精密なスキルの使い方ができていないらしい。
「大丈夫だ、マイス。君にならできる」
「え? あの……何かサポートは?」
「悪いが俺はダンジョン攻略をしないといけない。
ソフィアのことは君に任せたぞ」
「……はい」
ソフィアの監督役を任されたばかりか、彼女と一緒にスキルコントロールの訓練を言い渡され、マイスは少しばかり戸惑っている。
そんな調子だと、この子もダンジョン攻略に参加できそうにない。
「スキルって力任せに使えばいいってもんじゃねぇんだなぁ」
しみじみとダルトンが言う。
決して他人事とは思わず、真面目に話を聞いていた彼が、実は一番ダンジョン攻略に向いているのかもしれない。
「んで、俺たちはこれからどうするんだ?」
早速、訓練を始めた二人をしり目に、ダルトンが頭の後ろで腕を組んで言う。
「そうだな……とりあえず今から冒険者ギルドへ行こう。
ゲルグのおっさんが言ってたバートンって男に会って、
協力してもらえないか聞いてみようと思ってる」
「口利きがあっても難しいと思うなぁ。
現役を退いた奴を復帰させるって、よっぽどだぞ」
「ああ……そうかもな」
酒浸りになっているバートンを元気づけて、俺たちの仲間に引き込むのは難しいかもしれない。
しかし……鑑定のスキルは絶対に外せないのだ。
何をしても手に入れるべきだろう。
ダンジョン攻略の要となるかもしれない力なのだから。




