187 迷惑どころの話ではない
「おい、こんなところで何をしてるんだよ?」
俺が声をかけると、ソフィアは気まずそうに返事をする。
「ええっと……その……隠れたいなって思って」
「どうして隠れようと思ったんだ?」
「その……皆に迷惑かけちゃったかなって」
「…………」
迷惑どころの話ではない。
傭兵科の生徒たちはソフィアの練習に付き合わされて、散々な目にあった。
穴に入ったところで許されるとは思えない。
まぁ、この子を糾弾しようとする奴なんて一人もいないだろう。
報復されることを恐れて本音なんて言わないだろうし。
もちろんソフィアはそんなことで腹を立てて、報復するような子ではない。
それを知っているのは俺とマイスとファムくらいだろうけど。
「じゃぁ、穴になんて入ってないで、
ちゃんと皆に謝らないと」
「でっ……でも……」
「でもじゃない。早く出て来いよ」
「……うん」
浮かない表情のまま穴からはい出すソフィア。
穴に入ったところで何も解決しないことくらい、この子だって分かっているはずだ。
それでも穴に入りたい気分だったのだろう。
ソフィアはこれと決めたら周りを顧みずに、一直線に暴走する傾向があるようだ。
私的な練習に無報酬で付き合わされたら、傭兵科の生徒たちも彼らもたまったものではない。
今後、同じことがないように強めにくぎを刺すことにした。
「うう……ごめんなさい」
申し訳なさそうに謝罪するソフィアだが、謝る相手が違う。
「俺にじゃなく、傭兵科の皆に謝るんだ」
「うん……分かった」
俺はソフィアを連れて傭兵科の生徒たちの所へ行き、一人一人に謝らせて回る。
おかげで午前中ずっと謝罪行脚し続ける羽目になった。
「なぁ……どうして傭兵科の生徒を相手に選んだんだ?
他にも戦ってくれそうな人はたくさんいるだろ?」
「だって……傭兵科のみんな、優しいんだもん」
そんなことを抜かすソフィアに、さすがの俺もいらだちを隠せない。
相手が黙っていたら何をしてもいいというのか?
「その考え方は間違ってるぞ。
あと、練習方法なら別の手段を用意してやる。
俺の言うとおりに訓練をするんだ」
「え? ウィルさまが?」
途端に怪訝そうな顔になるソフィア。
「ああ、俺が考えた特別な訓練だ。
これをクリア出来たらダンジョンに潜っても大丈夫だろう」
「本当に?」
疑っているような目つきで俺を見る。
そんなに信用ないのかな……俺。




