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186 ここにいるのは俺一人

「おっ……俺がウィルフレッド?」

「ええ、違いますか?」


 マイスから向けられる真っすぐな視線を直視できず、思わず目を反らす。


 俺は決して嘘をついているわけじゃない。

 ウィルフレッド・フォートンではなく、小日向聡こひなたさとるとしての人格が今の俺。

 だから……嘘をついていると言われても、違うとしか言いようがない。


「いや、違うよ。

 何度も言っているだろ。

 俺はウィルフレッドじゃなく、サトルなんだって」

「やはり、そうおっしゃられるのですね」


 マイスはそう言ってしょんぼりと眉を下げた。


 そんな顔しないでくれよ……。


「ああ……うん」

「アナタがウィルフレッド様本人であると、

 わたくしにはそう思えてならないのです。

 何か根拠があるわけでもないのですが……」

「君がそう願いたいだけなんじゃないのか?」

「……そうかもしれませんね」


 マイスにとって俺はサトルではなくウィルフレッド。

 そう思いたいのだろう。


「悪かったよ、君の恋人から身体を奪っちゃって」

「謝らないでください。

 責めるつもりはないので」

「……そうかい」


 マイスに俺を糾弾する気がないのは分かっている。


 彼女は俺がウィルフレッドであると、信じたいのだろう。

 それをやめさせようとも思わない。


 まぁ、みんな好きに思ったらいいさ。

 サトルであろうと、ウィルフレッドであろうと、この身体を動かしているのは俺で、複数の人格が宿っているわけでもない。


 今ここにいるのは俺一人だ。


「マイスは俺をウィルフレッドとして好きなんだな」

「はい……でも……」

「サトルとしての俺も嫌いじゃない?」

「ええ、もちろんですわ」


 マイスからしたら複雑だろうな。


 恋人が別の人格に変わっちゃいましたとか言い始めて、別人の名前を名乗っているのだ。

 表向きはウィルフレッドとしてふるまっているが、彼女の前ではサトルと名乗っている。自分の恋人がそんなことをしたら複雑だろう。


 俺はもっとマイスに対して誠実であるべきかもしれない。


 自分でも思うが、俺はとことんクソ野郎だ。

 だからせめて彼女だけは泣かすまいと心に決めよう。

 もう興味のない女性から誘われても、手を出そうとしてはいけない。


 この身体の持ち主が帰って来る時のために、この身体は綺麗なままにしておこう。


「マイス……その……俺は……」

「今は何もおっしゃらなくて結構ですわ。

 時が来たら真実を話して下さい」

「ああ、分かったよ」


 と言われても、話すべき真実など何処にもない。


 俺はウィルフレッドではなく、小日向聡だ。

 彼女の婚約者ではない。


 他に話すべきことがあるとしたら、俺の過去についてだろうか?

 そのことについては誰にも話すつもりはないので、ずっと胸にしまっておこう。


 俺はただ、異世界から来たごく普通の一般人のままでありたい。


「じゃぁ、そろそろソフィアの所へ行こうか」

「ええ、そうしましょう」


 俺の言葉に、マイスは落ち着いた口調で答える。

 どこか弱弱しく感じたが気のせいではないだろう。






 俺はマイスと共に傭兵科の校舎へ。

 カテリーナとダルトンも一緒。


 校舎の前には倒れたままぐったりと動かない傭兵科の生徒たち。

 ソフィアの練習に付き合わされてこうなったのだろう。


「大丈夫ですか?」

「うう……ウィルフレッドさん?」


 俺が抱き起すと、傭兵科の生徒は苦しそうに呻く。


「何があったんですか?」

「ソフィアさまがスキルのコントロールがしたいから、

 練習相手になって欲しいと」

「……やっぱり」


 ソフィアが傭兵科の生徒を何人ボコボコにしようとも、彼女が完全に力を抑制できるわけではない。

 今まで散々彼らと戦ってきたのだから、それくらい分かっていると思うが。


 以前にも思ったが、これは人との接し方の問題だ。


 彼女がパーティーを組むには、ちゃんとした訓練が必要。

 でもそれは力の使い方ではなく、連携の取り方とか、コミュニケーションとか、そっちの方面の訓練だ。

 やるべきことが違う。


 俺はさっそくソフィアを探したが、彼女はなかなか見つからなかった。

 どうやら傭兵科の生徒たちをあらかた倒しつくしてしまったようで、別の場所で練習相手を探しているらしい。


 早く見つけないと面倒なことになりそうだな。

 胸騒ぎを感じた俺は一刻も早く彼女を探すべく、傭兵科の校舎周辺をくまなく探して回った。


 そして……ようやく彼女を見つけた。

 穴を掘って、その中に隠れているソフィアを。

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