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185 嘘をついている

 マイスに話があると言われ、ひと気のない場所へ連れていかれる。


 いったい何を言われるかとビクビクしていたら、彼女は勢いよく頭を下げた。


「申し訳ありません!」

「……え?」

「どうか、どうか許してほしいのです!」

「え? え? なにを?」


 急に謝罪されるが、心当たりが一つもない。

 なんでマイスは俺に頭を下げているのだろう?


「ごめん、どうして謝られたのか分からない。

 理由わけを話してくれるか?」

「その……ソフィアのことで……」

「ソフィアがどうかしたの?」

「わたくし、彼女をどうにかして元気づけようとして。

 あれこれと頑張ってみたのです。

 その結果……!」


 どうなったんだ?

 俺は固唾を飲んで彼女が何を言うのか見守る。


「ソフィアが不良になってしまいました!」

「……へ?」


 意味が分からないので、詳しく話を聞く。


 なんでも、マイスは落ち込んだソフィアに――

『スキルでダンジョン攻略をしようとしても、

 今のソフィアさんだと力が強すぎるので難しいですわ。

 だから力をコントロールするために、

 色々と訓練を積む必要がありますの。

 試しに弱い敵と戦って、

 力をコントロールできるようにしたらいいですわ!』

 ――とアドバイスしたらしい。


 それを聞いたソフィアはさっそく弱い敵がいっぱいいる場所へと向かった。


 言うまでもなくそこは……。




「うぎゃああああああああああ」




 どこかから誰かの悲鳴が聞こえる。


「はっ……始まってしまいましたわ!」

「ソフィアが傭兵科の生徒を相手に、無双してるのか」

「ええ、その通りですわ!

 このままだと……このままだと傭兵科の生徒が、

 ソフィアに皆殺しにされてしまいますわ!」


 多分だけど、そんなことにはならないと思う。

 ソフィアも死なない程度の加減くらいはできるだろう。


 どっちかっていうと、スキルの使い方よりも人との付き合い方の問題な気がするなぁ。


 ソフィアは誘われて嬉しくなり、つい力加減を間違えた。

 ソフィアさんすげーとか、最強ソフィアさんカッコいいとか、そんなことを言われて真に受けたのだろう。


 あるいは早く倒せって急かされたのかもしれない。

 ソフィアは他人の言葉に敏感に反応するタイプなので、何か言われたらコントロールを失うんじゃないか。


 もし彼女が一人でダンジョンに潜っていれば、結果も違ったはずだ。


「まぁ、落ち着いて。

 ソフィアだってバカじゃないから、

 死人を出したりはしないと思う。

 トレーニング方法については俺が何とかするよ。

 後で一緒に彼女の所へ行こう」

「さすがサトルさま! ありがとうございます!」


 マイスはホッとした表情を浮かべる。

 よほど心配だったんだな。


「あの……マイスさぁ」

「なんでしょうか?」


 昨日のことを話すべきか迷う。

 というか……吐き出したくて仕方がない。


 もちろん、言わなければマイスは傷つかないし、平穏なまま終わる。

 あえて伝えるメリットなど何もない。


 しかし……マイスの顔を見ていると、真実を話したくなる。


 いや、違うな。

 嘘をつくメリットがない。

 そう思ってしまうのだ。


「なぁ……変なこと聞いてもいいか?」

「なんでしょうか?」

「なんでさ……マイスは俺のことを好きになったの?」

「え? わたくし達は婚約者で……」

「でも俺はウィルフレッドじゃないだろ?」

「それは……」


 小日向聡である俺は、ウィルフレッド・フォートンじゃない。

 まったくの別人だ。


 それはマイスも知っている。


 なのに……。


「ウィルフレッドではないサトルであるこの俺を、

 どうして君は好きになってくれたんだ?」

「それは……その……」


 マイスはうまく答えられないでいる。


 ずっと疑問だったのだ。

 彼女と初めて会った時から。


 中身が入れ替わった俺に、マイスはずっと親身に接してくれた。

 それこそ、本当の婚約者であるかのように。


 俺は多分、マイスを好きになりつつあるんだと思う。

 昨日カテリーナに手を出そうとして罪悪感を覚えているのも、そのせいだ。


 だから……確証が欲しい。

 彼女が俺を愛しているという確証が。


「それでは……正直に言わせていただきますね。

 わたくし、実は……

 あなたが嘘をついていると思っています」

「俺が嘘を?」

「ええ、サトルさまなど、もともと存在していない。

 あなたはウィルフレッド・フォートン本人だと。

 わたくしはそう思ってるのですが……違いますか?」


 マイスは真っすぐに俺を見つめて言う。

 紫色の瞳が、燦然と輝いていた。

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