181 カテリーナの部屋へ
一晩学校に泊まると言ったら、カテリーナが自室へ招いてくれた。
嬉しいのはやまやまだが、女子の部屋に泊まるのはどうなのか。
校則違反にならない?
「いや……その……」
「私の部屋だとイヤですか?」
「そう言うわけじゃ……」
もちろん嫌とは言えない。
しかし、簡単に承諾することもできない。
どうしているか悩んでいるとダルトンが……。
「俺の部屋は相部屋だから無理だぞ」
と、先に言う。
だから最初から頼もうなんて思ってねぇよ。
「女性の部屋に男子が泊まるのはどうかなって」
「大丈夫です。私の部屋は相部屋ではないので!」
いや……答えになってねーよ。
なんだこの子?
カテリーナさんも割と不思議な思考回路をしている。
「あの……でも……ヤバくないですか?
男を寮の個室に上げるなんて」
「誰も気にしないと思いますけど?」
「いやぁ……」
気にすると思うけどな。
めっちゃ気にすると思うけどな。
「んじゃ、俺は帰るから。明日なー」
「ダルトン⁉」
俺を置いて一人で帰ろうとするダルトン。
「なんで一人で帰ろうとしてるの⁉
この状況、分かってる⁉」
「逆に聞きてぇんだけど、なんでそんな必死なんだよ。
嫌なら普通に断ればいいじゃねーか」
「いや……その……カテリーナさんが傷つくかなって」
「バカかよ。
んなことで傷つくような奴だったら、
ダンジョンなんて潜れねぇだろうが」
確かにその通りなんだが……。
カテリーナさんを傷つけずに断るには、コイツの部屋に行くという流れでこの場を離れるのがベスト。
別に泊めてもらう必要なんてないのだ。
しかし……ダルトンがいなくなったらその手も使えなくなる。
空気を読んで調子を合わせてくれ。
頼むから。
「なぁ……床でも何でもいいから、
お前の部屋に泊めてくれよ」
「無理、同室の奴らも同じように断ると思う。
つーかせっかく“やらせてくれる”って言ってんだから、
さっさと食っちまえよ」
「……は?」
今なんて言った、コイツ?
「お前、実は頭いい振りしたバカか?」
「いや……その……」
「経験値は稼げるうちに稼いどけ。
どうせやったところで、何か減るわけじゃねーし。
あっ、避妊だけは気を付けろよ。
後で後悔しても知らねぇぞ」
ダルトンはそう言ってにんまりと笑う。
「んじゃっ、頑張れよ!」
「あっ、待って……」
ダッシュで何処かへ行くダルトン。
残された俺はカテリーナさんと二人っきり。
「ウィルフレッドさん……」
「ええっと……」
カテリーナが潤んだ瞳で俺を見ている。
なんか……雨の日に捨て子犬を見つけた気分だ。
「待たせたな、書いて来たぞ」
「あっ、ありがとうございます!」
そこへゲルグが手紙を持って戻って来た。
タイミング的にありがたい。
「これをバートンに読ませてやってくれ。
元気づけられるかもしれん」
「確かに頂戴しました」
ゲルグから手紙を受け取る。
この流れで宿泊場所もお願いできないか聞いてみよう。
「あの……もしよろしければなんですけど……」
「すまねぇが他を当たれ。
ここには泊めてやれねぇ」
「え?」
「なぁ……少年。
据え膳食わぬは男の恥って言うだろ」
「は?」
「頑張れよ」
ゲルグは笑顔を浮かべてサムズアップ。
救護棟の扉を閉めてしまった。
お前……俺たちの話、聞いてたんかい。
「ウィルフレッドさん?」
「…………」
「私の部屋へ行きましょうか」
「えっ、あっ……」
もはや傷つけるとか、配慮とか、そういうことを言っている段階ではない。
きっぱりと断ろう。
「ゴメン、カテリーナさん。俺は……あれ?」
「どうかされましたか?」
すごくくらくらする。
めまい……かな?
身体が疲れすぎたのかもしれない。
とにかくどこかで休まないと……。
「とりあえずゆっくり休んが方がいいですよ。
私について来て下さい」
「え? ……うん」
頭がぼーっとする。
思考がぼやけてハッキリしない。
俺……どうしたんだ?
それから俺はカテリーナと学生寮へ。
彼女の個室まで連れていかれた。
本当はいけないと思いながらも、どうしても断り切れず。
彼女の部屋まで来てしまった。
彼女の部屋は綺麗に整頓されており、ごみ一つ落ちていない。
部屋の半分ほどを占める大きなベッド。勉強机と本棚にクローゼットと、必要最低限の物しか置けない狭い部屋。
机の上にはぬいぐるみと観葉植物が置いてあった。
「さぁ、ここで休んで下さい」
「えっ、でも……」
「気にしなくて大丈夫ですよ。
さぁ……遠慮しないで」
「うん……」
俺はカテリーナに言われるがままベッドの上へ。
横になった途端に前進から力が抜け、意識が飛ぶように眠ってしまった。
「ゆっくり休んでくださいね」
カテリーナの声が頭の中でエコーする。




