180 鑑定スキル
「……え? 鑑定、ですか?」
「ああ……そうだ。
バートンは『鑑定』スキルの持ち主だ」
鑑定と聞いて食指が動かないはずがない。
おそらくだが、物の価値を鑑定する能力だと思うのだが……それだけで仲間に入れるよう勧めるとは思えないんだよな。
「すみません、鑑定スキルについて、
詳しく教えてもらってもいいですか?」
「ああ、構わないぞ。
つっても本人から聞いた方が正確だと思うけどな」
と言いつつも、ゲルグは自分の知っている範囲で、バートンの持つ『鑑定』スキルについて教えてくれた。
結論から言うと、鑑定とは名ばかりの超便利スキルだった。
鑑定はアイテムの価値だけでなく、物体の性質や、魔物の強さも知ることができる。
未知のモンスターと遭遇しても、このスキルがあれば安心。スキルを発動するだけで簡単に敵のデータを収集。
どんな敵とでも事前知識を得たうえで戦える。
しかし一つ、難点がある。
人間相手には効果がないらしい。
まぁ、人間相手に使えなかったとしても、魔物の情報が得られるのだから、神スキルであることに違いはない。
是非ともパーティーメンバーに加入していただきたいものだ。
しかし……あの禿のバートンにそんなスキルがあったなんて。
最初から聞いていれば、こちらからお願いして仲間になってもらったのになぁ……。
重要キャラとは思ってなかったので、お気に入り登録すらしていない。
鑑定は誰もが欲しがるような神スキルだと思う。
宝石とか貴金属の価値を判別したり、芸術品の贋作を見抜いたりとか、いろんな場面で役に立つと思う。
そんなスキルの持ち主が……どうして冒険者ギルドに入り浸って酒なんか飲んでるんだ?
「そんな素晴らしいスキルをバートンさんが?」
「なんだ、疑ってるのか?」
「いえ、その……実は……」
俺は冒険者ギルドとバートンの現状について話した。
「そんなことになっていたのか……」
「ご存じなかったのですか?」
「ああ、まったく知らなかった。
くそっ……バートンの奴。
困ってるなら声をかけてくれたらいいのによ」
「仲が良かったんですね」
「まぁ……友達って程ではないけど、そこそこな」
ゲルグはそう言ってため息をつく。
「あいつも昔は大活躍してな。
ここいらじゃ知らない奴がいないくらい、
冒険者として名を上げた男だった。
しかし……英雄学校ができてからは、
てんで話を聞かなくなっちまって……」
「そうだったんですか……」
「なぁ……できればでいいんだが……
バートンに声をかけてやっちゃぁくれねぇか。
俺からも手紙を書いておくから」
「分かりました」
旧友であるゲルグからの手紙を読めば、バートンもパーティー加入を承諾してくれるかもしれない。
まぁ……そこまで彼にこだわる必要も無いと思うのだが。
「どうしてバートンさんは再就職しないんですかね?
鑑定スキルがあれば、仕事には困らないでしょうし」
「確かにそうかもしれねぇ。
けど、バートンは有名になりすぎちまった。
あいつにとって冒険者としての仕事は、
人生のすべてだったと言っても過言じゃない。
冒険者として生きられないのであれば、
どんな仕事に就こうと意味がないんだろ」
「…………」
そういうもんなのかね。
まぁ……分からなくもない。
俺だって成功した過去を完全に捨てて、別の仕事に乗り換えろと言われたら無理かもしれない。
人は生き方をそう簡単には変えることはできない。
身をもって体験したので、よくわかっているつもりだ。
「ちょっとここで待っていてくれ。
一筆したためる」
「……はい」
ゲルグはそう言って奥へと引っ込んでいった。
「なぁ、そのバートンとか言う奴。
使えるのか?」
ダルトンが尋ねて来た。
「まぁ……そこそこ、使えると思う。
鑑定スキルは間違いなく役に立つ。
戦力としても期待できるかもしれない」
「でも、現役を退いてそうとう経つんだろ?
体力的に大丈夫なのか?」
「それは……」
実際に話を聞いてみないと分からないな。
昼間から酒をあおり、自暴自棄になったかつての冒険者。
今どれほどの力が残っているのか。
「そう言えば、ウィルフレッドさん。
今夜はご自宅に帰られるのですか?」
カテリーナが尋ねる。
もうすっかり夜も遅くなり、空では星が輝いている。
今から帰宅するのはしんどいな。
「どこか適当な場所で休もうかな。
談話室でも使って」
「それなら、私の部屋を使いませんか?」
……え?




