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18 優柔不断なままでは困る

「その……すみません。俺は……」

「この場での回答は差し控えさせていただきます」


 俺が答える前にファムが言った。


「どうしてですか?」

「今、フォートン家は微妙な状況に立たされています。

 マイスさまのお立場もありますし、

 安易に返事をするのは問題かと」

「わたくしはウィルフレッドさまにお尋ねしていますの。

 横から口を出すのはお控え頂けると幸いです」

「この場にアルベルトさまが不在である以上、

 私共からお答えすることは出来かねます。

 どうしてもというのであれば……」

「分かりました。直接、アルベルトさまに確認を取ります」


 マイスはそう言って席を立つ。


「あの……ウィルフレッドさま」

「えっと……」


 彼女は俺をまっすぐに見下ろす。その視線には失望の想いが込められていた。


「ご自分のことでさえ決断を下せず、

 従者やご両親に意思決定を委ねてしまうのは、

 男としてあまりに情けなくありませんか。

 我が夫となるわけですから、優柔不断なままでは困ります。

 きちんとご自分でご自分の意思を表明できるよう、

 心持を改めてくださいませ」

「そっ……そうですね」

「では、さっそく行ってまいります」


 彼女はそう言ってさっさと部屋を出て行ってしまった。


「えっと……私も……」

「ソフィアさまはここでお待ちください。

 アナタが話に入ったら余計ややこしくなります」


 ついて行こうとしたソフィアをファムが引き留める。


「でっ……でも……」

「先ほどマイスさまがおっしゃった通り、

 問題の原因を作ったのはソフィアさまです。

 あなたに口を出す権利は無いと思いますが?」

「うっ……」


 ファムのぴしゃりとした言葉に、ソフィアは何も言えなくなる。


 つーかさぁ、全部この子のせいだとしたら、もっと責任感じてもいいと思うんだよね。あんまり後ろめたさを感じているようには見えないんだが?


「あの……ウィルさま」


 不安そうに俺を見るソフィア。


「えっと、なんでしょうか?」

「マイスの話、受けるつもりですか?」

「ええっと……」


 マイスは単に仕事を斡旋してくれようとしているだけだと思う。別に自分の優位を確保することが目的ではないような気もする。


 別にこれと言って根拠があるわけでもない。ただ何となくそう感じただけ。


 だから……彼女の提案を受け入れるのは、やぶさかでもない。特にデメリットも感じないし。むしろこれからのことを考えたら、絶対にこのオファーを受けるべきだ。お金だって必要になるだろうから……。


「そうですね……仕事をしてお金を稼がないと」

「でっ……でも……」

「あっ、ご心配には及びません。

 僕の能力を超えた仕事は引き受けるつもりはないので。

 できる範囲で頑張らせてもらおうと思ってます。

 それに……少しでも頑張らないと……。

 ウィルフレッドさんのご両親に顔向けできない」

「…………」


 俺がそう言うと、ソフィアは悲しそうな表情を浮かべる。

 マイスの前ではあんなに強がっていたのに、今の彼女はたやすく折れる枯れ枝のように弱弱しい。

 そんな彼女を見ていると胸が痛くなる。


「わっ……私……ちょっとお花摘みに行ってきます」


 ソフィアはそう言って中座した。


「…………」

「…………」


 一人残された俺は手持無沙汰になり、なんとなくファムを見やる。彼女は無表情でまっすぐに俺を見ていた。

 何かしろと行動を促しているように感じたので、俺も一言告げて部屋を出た。


 マイスのことが気になったので、書斎へと向かう。アルベルトはいつもそこにいる。


 廊下を歩いているとソフィアの声が聞こえた。

 ふと声のする方へと注意を向けると……。


「うっ……ぐっ……ひぐっ……うっ」


 階段の踊り場の隅の方で、うずくまって嗚咽を漏らすソフィアの姿が見えた。顔を覆った両手の隙間から、涙があふれて床にしたたり落ちている。


 ……何も感じていなかったわけじゃないんだな。


 罪悪感に打ちひしがれて涙を流す彼女の姿を見ても、何もできない。彼女にとって俺はウィル様ではなく、見ず知らずの赤の他人。

 慰めの言葉をかける資格などないのだ。


 俺は書斎へと向かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごくゆっくりですが楽しく読ませていただいています! たらこさんの作品は読みやすくて内容が私でもすーっと頭に入ってきます。 でも読むならやはり一気読みしたいですね。 設定とか忘れてしまうの…
2022/07/24 22:21 退会済み
管理
[良い点] 18 優柔不断なままでは困る まで読みました。 テンポが良く、読みやすかったです。 また、心なしかなろうを思わせる要素が絡んでいて、楽しい作品ですね。 賑やかで、読んでいてワクワクします。…
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