17 全部燃やしちゃいました
幼いころに両親を失ったソフィアは各地を転々として、英雄学校へたどり着く。彼女の持つ強力なスキルである『炎獄』に目を付けた学校の教師たちは、すぐさま特待生として迎え入れる準備をした。
しかし……ソフィアには問題があった。
彼女はスキルの力をコントロールできていなかったのだ。
英雄学校へ入学して寄宿舎に寝泊まりした彼女は、三日目にスキルが暴走して大事故を起こす。寄宿舎を炎上させてしまったのだ。
幸いも死者は出なかったが、英雄学校はソフィアの受け入れに難色を示した。こんな扱いづらい輩を受け入れるのは難しい。
当然の反応だと思う。
ソフィアには後がなかった。英雄学校が受け入れてくれなかったら、彼女には行き場がない。
なまじ、持っているスキルが強力なため、放っておいたら何をするか分からない。国の上層部からは内密に処分しろとの指示まで出されたとか。
そんな彼女を救ったのは、ウィルフレッドの父アルベルトだった。
彼は自分が後見人となり面倒を見ると約束して、英雄学校への入学を認めさせる。学校側は彼女をフォートンの屋敷に住まわせて面倒を見ることを条件とし、アルベルトもそれを承諾。
ソフィアがフォートン家に来てからというもの、彼女は問題を起こしまくった。いたるところでボヤ騒ぎを起こし、その度に補修工事が必要になり財政を圧迫。気づいたら残された財産はほとんどなく、すっからかんの状態。
それでもソフィアは力を暴走させて火事を起こす。
ついに首が回らなくなったアルベルトは、弟であるナーガに借金を申し込む。返済が全く追いついていないにもかかわらず、毎年のように金を借り続けた。
結果……借金の額は屋敷と敷地を合わせた資産価値とほぼ同額になるほど膨れ上がり、ついには差し押さえられてしまった。
……ということらしい。
「えっ……じゃぁ……」
「お察しの通り、全部この子のせいですの。
フォートン家の財政が悪化したのも、
借金のかたに屋敷を取られてしまうのも、
全部全部この子のせいなのですの」
「そっ……そうなんですか?」
俺がファムに尋ねると……。
「否定はできませんね。
もちろん、原因はソフィア様だけではありませんが」
「…………」
俺はソフィアの方を見る。
彼女はさっと顔を背けた。
「あの、目を背けないでもらっていいですか?」
「ええっと……ごめんなさい。てへ!」
自分の頭を小突いてウィンクをしながら舌を出すソフィア。
てへぺろでごまかそうとするな。
「じゃぁさ……色んな所を転々として、
どこも三日で追い出されたって言うのも……」
「私が全部燃やしちゃったの」
「親戚の家も、教会も?」
「……うん」
「…………」
そっか……燃やしちゃったかぁ。
それってさぁ、追い出されたって言わなくね?
「はぁ……こんな恐ろしい子の面倒を、
よくもまぁ放逐せずに見続けられたものですわ。
普通だったら逃げ出したくなると思いますの。
でも、アルベルトさまは決して見捨てなかった。
ウィルフレッドさまも」
マイスはそう言って俺の方を見る。
その視線には、非難の意思が感じられた。
「あの……改めてお尋ねしますけど。
ウィルフレッドさまは、わたくしとソフィアさん。
どちらとご結婚なされるつもりですか?」
「えっと……」
マイスの問いに戸惑う。
中身が全くの別人である俺は、なんと答えたら……。