168 傭兵科の生徒は人気
ダンジョン攻略への参加を希望する生徒は、パーティーを組んで申請書類を提出し、学校から認可を受ける必要がある。
パーティーには最低でも4名必要で、ソロ攻略は認められていない。
外部から人を連れて来て学生でない者をメンバーに加えてもいいそうだ。
俺はダルトンを名目上のリーダーに据えて、パーティーを組むことにした。
しかし、結成にはあと一人足りない。
最後の一人をどうするか。
俺たちはアリーナの受付ロビーで相談しあっていた。
「とにかく、誰でもいいから声をかけて、
パーティーに入ってもらえばいいんじゃないか?」
「駄目だぜ、ウィル。
仲間はちゃんと選ばないと。
役立たずを仲間に加えても、後で後悔するだけだぞ」
人差し指を立てて横に振りながら、ちっちっちと舌を鳴らすダルトン。
彼の言う通り、足手まといを仲間に入れてもマイナスにしかならないが、パーティーを結成できなければそれ以前の問題だ。
まずはスタートラインに立つことを優先すべきだ。
戦闘面で役に立たないのであれば、後方支援を任せてもいい。
荷物持ちとか、物資の管理とか。
ゴッツだって生徒会のメンバーに交じって役に立てたのだ。
一般の生徒だってそれなりに利用できると思う。
しかし……にぎやかだな。
生徒たちは和気あいあいとダンジョン攻略談義にはなを咲かせている。誰もが胸に希望を抱いて楽しそう。とても生死を分けるような戦いに臨む者たちには見えない。
まるで放課後に何処へ遊びに行くか相談している現実世界の高校生みたいだ。
彼らは交友関係の中から気の合う仲間を見つけてパーティーを結成して、持ち前のスキルでダンジョン攻略に挑戦するのだろう。
一般人とは比べ物にならないほど強いスキルを持っているのだから、冒険者たちよりもずっと効率よく攻略できる……はず。
俺は少し不安に思っている。
下手をしたら学生に犠牲が出るのでは?
それも、一人や二人ではなく……。
「おおっ、見ろよ」
ダルトンが俺の服の裾を引っ張る。
「なんだよ?」
「ほら、傭兵科の生徒たちが来たぞ」
彼が指さした方を見ると、傭兵科の生徒が次々に床から生えてきている。
アリーナに人が入って来る様子を見るのは初めてなので、ちょっと面白い。
「なんで傭兵科が?」
「スカウト待ちだよ」
「え? スカウト?」
「他のパーティーに入れてもらおうって算段なんだろ。
あいつらだけじゃ攻略できないから、
英雄科や騎士科の生徒の仲間に入れてもらって、
ダンジョン攻略に参加しようってわけさ」
「なるほど……」
確かに傭兵科の生徒たちだけじゃ無理だろうな。
何事もスキルが物をいう世界。英雄科の生徒と比べたら、実力は天と地との差がある。実力で劣る彼らがダンジョン攻略に参加するにはこれしか方法がないのだ。
しかし、あながち悪い手段でもないと思う。
傭兵科が先頭に立って敵の攻撃を受けてくれれば、他のパーティーメンバーは楽に戦えるだろう。荷物運びとかも得意そうだし、兵站面でも活躍できる。
それに……英雄学校に入学したってことは、それなりに有用なスキルを持っているはずだ。
少なくとも冒険者のおっさんたちよりは、役に立つのではないだろうか。
「俺たちも傭兵科に声をかけるか?」
「いや……無理だろうな」
「え? 何が無理なの?」
「使える奴は先に他のパーティーに取られちまうよ。
後発組の俺たちと組んでくれる奴なんていないと思う」
ダルトンの予測した通り、傭兵科の生徒がロビーに現れるやいなや、雑談していた生徒たちが一斉に集まって品定めを始めた。
交渉があちこちで始まって、あっという間に人だかりができる。
「傭兵科の生徒って人気があったんだなぁ」
「面倒な仕事を全部引き受けてくれるからな。
事前に配られたダンジョン攻略の手引書でも、
傭兵科の生徒を最低一人はパーティーに入れろって、
そう書いてあったぜ」
ダルトンはそう言って一枚の冊子を取り出す。
「傭兵科の生徒はそう言う訓練も受けてるからな。
雑用を任せるにはもってこいなんだろう」
「じゃぁ、俺たちも早く……」
「だから遅いって。
せめてお前が来たのが昨日なら、
まだ間に合ったかもしれないけど」
ダルトンが口惜しそうに言う。
傭兵科の生徒たちは次々とスカウトされてゆき、パーティーメンバーと受付を済ませてロビーを後にする。
少ししか時間がたっていないが、もう半分くらいは数が減ってるな。
「いくらなんでも数が減るのが早いな。
予め組む奴が決まってたみたいに」
「優秀な傭兵科の生徒に前もって声をかけて、
パーティーを組む約束を取り付けてた奴もいるらしいぞ」
「へぇ……」
予約済みとかすごいな。
どんだけダンジョン攻略に熱入れてんだよ。
最低でも4人必要と言われているが、多くのパーティーは4人以上で組むことになるらしい。
荷物持ちや、支援要員を含めると、総勢で10人を超えることもあるとか。
「使えるものはなんでも使えって感じだな」
「ああ……魔法科の生徒たちも駆り出されるみたいだし」
「え? 魔法科の生徒も?」
「回復系の魔法が使える生徒なんかは重宝するらしい」
そう言えば回復魔法ってのがあったよな。
この世界の魔法って基本、機械を動かすためだけにあるようなものだが、例外として回復魔法だけはダンジョン攻略の役に立ちそう。
カテリーナさんも参加するんだろうか?
ふと、彼女のことを思いだしたら、ロビーの壁際で物憂げにたたずむ彼女の姿を見つけた。
周囲に誰もいない。
もしかして一人なのかな?
試しに声をかけようと思って歩いて行くと……。
「カテリーナ! さっさとこっちへ来い!」
受付の方から声が聞こえた。
その声の主は……。
「ヘレーネル?」
俺はその人物を一目見て、誰なのか理解した。
カテリーナの腹違いの姉、ヘレーネル・クルセルドだ。




