167 死んだらそれで終わり
それから二人で歩き続け、なんとか夜明け前に英雄学校へたどり着けた。
ちょっと休憩を取ろうということで、適当な部屋を見つけて仮眠。
談話室が開いていたので、そこで横になって数時間ほど睡眠をとった。
「起きてください、サトルさま」
ソファで横になる俺をファムが揺り起こす。
「ううん……もう時間か?」
「生徒たちが登校し始めました。
ここにも人が来るでしょう」
「でもここ談話室だぜ? 誰が……」
「おはよう! 我が親友!」
すごいテンションのダルトンが入って来た。
彼は最高に爽やかな笑顔を浮かべている。
「なんだ……ダルトンか」
「おいおいおいおい、つれないなぁ。
この俺を助けるために、
わざわざ学校まで来てくれたんじゃないのか?
ええ、親友⁉」
「別にお前を助けに来たわけじゃないけど、
何か悩みがあるんなら聞いてやってもいいぞ。
親友だからな」
「そうこなくっちゃ!」
ダルトンは引き続きテンション高めに話し始める。
「実は、新しいカリキュラムが追加されたんだ!」
「へぇ、そうなんだ」
「聞いて驚けよ?
なんと! ダンジョン攻略だ!
学生だけでダンジョンを攻略するんだよ!
すごくねーか⁉」
「へぇ、そうなんだ」
「おい……なんでそんなにテンション低いんだよ?」
うるせぇ。
俺にもいろいろあるんだよ。
しかし……学校がダンジョン攻略か。
「どうして急にそんなことが?」
「ここから少し離れた場所にダンジョンが湧いたんだ。
地域住民からそれを潰して欲しいって依頼が来てる。
学校中、その話題で持ちきりだぜ」
ダルトンは楽しそうに話す。
そっか。
生徒会のメンバーがいなくなったから、一般の生徒に攻略を任せようっていうことか。
やはりとは思っていたが、あまりに急すぎる。
……面倒なことにならないと良いけどな。
「実戦経験もない学生に、
ダンジョン攻略なんて任せても大丈夫なのか?」
「不安に思って参加をためらう生徒もいるよ。
任意だから全員が参加するわけじゃない。
でも……もし活躍出来たら一気に有名人だぜ!」
「ふぅん……」
そんなに有名になりたいのかね。
俺にはよく分からん。
「なんだよ、反応薄いな」
「いや……有名になるのは結構だけど、
攻略する前に死んだら意味ないなって思って。
生徒が怪我とかしたら、学校はどうするんだ?」
「さぁ……死んだらそれで終わりだろ」
ダルトンは当然のように言う。
やはり、学生がどうなろうと学校には関係ないのか。
責任を取るつもりなど、はなからないのだろう。
それは生徒たちもよく分かっている様子。
ダルトンの反応を見る限り、そう言う認識で間違いないだろう。
「お前、他にも友達がいただろ。
そいつらは参加しないのか?」
「いやぁ、俺がやろうぜって言ったらビビっちまってさ。
どいつもこいつも気後れして、腰が引けてやがる。
大したスキルも持ってねぇからなぁ」
ダルトンはやれやれと肩をすくめる。
彼のスキルは有用だ。
ダンジョン攻略でも大いに役立つだろう。
残念なことに、彼の周りには使えるスキルの持ち主はいなかったようだ。
まぁ……単にダルトンに人望が無くて、誰も誘いに応じなかっただけかもしれないが。
「そこで、俺の親友であるウィルフレッド君に、
是非とも協力をお願いしたいと思ってさ。
俺に力を貸してくれないか?」
「別に構わないけど、条件がある」
「条件?」
「俺の指示に従ってくれ」
俺がそう言うとダルトンは……。
「別に構わないぜ」
そう言って笑顔で右手を差し出してきた。
こいつはなんだかんだ言って使える。
スキルは強いし、意外な特技もあるし、おまけに素直。
仲間として申し分ない実力者だ。
俺は彼の右手を力強く握り返す。
「よろしくな、相棒」
「相棒⁉ くぅー! いい響きだな!」
ノリノリのダルトン君は左手でガッツポーズをする。
こいつが積極的に協力してくれるのは、正直言ってありがたい。
感謝したいくらいだ。
「では、さっそく。他の生徒にも声をかけましょうか。
このメンツだけでは少々不安ですので」
「え? アンタは?」
「覚えてませんか?
ウィルフレッドさまの専属メイド、ファム・タナカです」
「ああ……そう言えばいたな。
よろしく頼むわ」
「こちらこそ」
ファムとも握手を交わすダルトン。
彼女のことを忘れるとか、どんな脳みそしてるんだ?
忘れる方が難しいと思うが……。
「なぁ……ダンジョン攻略を生徒でやるって言うんなら、
それ専用の施設とかあるんだろ?
冒険者ギルド的な奴が」
「冒険者ギルド? なんだそれ?」
ダルトンは首をかしげる。
「今の若い子は、冒険者も知らないのですね。
嘆かわしいことです」
ファムはやれやれとかぶりを振る。
冒険者の実情を知っている身としては、なんとも物悲しい気分である。




