164 真面目な話をしている
夕食の時間。
ソフィアとマイスが作った野菜のスープと固いパンを食べる。
薄味の料理に、パッサパサのパン。
本来なら味気なく感じるのだが……とてもおいしく思えた。
一口スープを噛み締めるだけで野菜のうまみが口いっぱいに広がって行く。
パンを浸して食べると、なおおいしい。
「二人は料理の天才じゃないか?
きっといいお嫁さんになるぞ」
「「そんなぁ」」
アルベルトの言葉に照れくさそうに笑う二人。
褒められて嬉しそうだ。
お世辞とかではなく、本当に美味しく感じる。
きっと愛情がこもっているんだろう。
二人とも頑張ってたからなぁ。
「そうだ、今度は私がお料理をしてみようかしら」
「おいおい、母さんが料理だなんて……何年ぶりだ?」
「何年ぶりか覚えてないけど、
あなたが作るよりもずっと上手にできると思うわ」
「それは間違いないな。あっはっは」
セリカの言葉にアルベルトが笑う。
二人とも本当に幸せそうである。
フォートン家に滞在していた時は、こんな風に会話する二人を見たことがなかったな。いつも黙然としていたし、食事の時に会話することもほとんどなかった。
住む場所が変わって距離感も縮まったからか、本来の関係性が引き出されたのかもしれない。
フォートン家のお屋敷は確かに立派で広かったけど、あそこにいた時は常々居心地の悪さを感じていた。
引っ越して正解だったんじゃないか?
「もう少し塩気があった方がおいしいですね。
次からはケチらずに、もっと塩を入れておいてください」
食べるだけの能無し駄メイドが文句を言っている。
さすがにひっぱたいてやろうかと思った。
「そこのバカメイドはあんなこと言ってるけど、
俺はおいしいと思うよ。
二人とも作ってくれてありがとう」
「まぁ……嬉しいですわ」
「えへへ、ウィル様に褒められちゃった」
マイスもソフィアも素直ないい子だ。
どこぞの駄メイドとは大違いだなぁ。
「褒めるだけでは、人は成長しませんよ」
「はいはい、そうですね」
ファムの言葉を聞き流しながら、食事を終えた俺は食器を片付ける。
この家には水道が存在しないので、洗い物は屋外の洗い場で行う。
井戸で水をくんで桶に溜めて利用する。
面倒だが、慣れると別に大変でもない。
井戸から水をくむのは重労働だが、誰でもできる単純な仕事だ。
だから食事の後の食器洗いは率先して行うようにしている。
できることが少ない俺でも、少しはみんなの役に立ちたいのだ。
「どれ、俺も手伝おうか」
食器をお盆に乗せてアルベルトが洗い場にやって来た。
何気にこの人も気を遣うタイプなんだよな。
アルベルトと並んで食器をすすぐ。
洗剤などはうちに置いてないので、丁寧にスポンジみたいな物体(多分乾燥させた海綿動物)でこすっていく。
「ソフィアとはどうなっている?」
「え? まぁ……ぼちぼちだよ」
急にソフィアの話題を振られた。
「なれなれしい態度を取らないでくれ。
君の父親になったつもりはないが?」
「あっ、すみません」
「それで、ソフィアとは?」
アルベルトは俺に心を許していない。
いまだに俺は彼にとって小日向聡のままなのだ。
「いえ……それが……まだ」
「まぁ、無理もない。
彼女を抱くには相当な覚悟が必要になる。
少しずつ慣らしていくのがいいだろう」
慣らすっていうのはつまり……男女の営みのことだろう。
そう簡単にはいかないし、時間もかかると思う。
少しでも興奮したら大爆発を起こすからなぁ。
「あの……質問なんですが、
彼女ってどこまで知ってるんです?」
「なにをだ?」
「男女の違いについてですよ」
「ふむ……」
アルベルトは洗い物をする手を止め、眉間にしわを寄せる。
「男の股に『ちんぽこ』がぶら下がっていることくらい、
彼女でも知っているだろう」
「ぶっ!」
彼がまじめそうな顔で『ちんぽこ』とかいうものだから、思わず吹き出してしまった。
「何がおかしい? 真面目な話をしているんだぞ」
「すみません……つい……」
弁明する俺を険しい顔でにらみつけるアルベルト。
そんな顔するんだったら『ちんぽこ』とか言うな。
「まぁ、いいだろう。
それよりもできるだけ早く、ソフィア君を孕ませるんだ。
時間は限られているぞ」
「あの……あとどれくらい?」
「あまり猶予は残されていない、とだけ言っておく」
だから具体的な時期を教えてくれって言ってるんだよ。
知ってるだけで計画の立て方も違ってくるの。
それくらい分かれよ、クソが。
「だいたい洗い終えたな、後は任せる……あっ」
「はい……え?」
小屋へ戻ろうとしたアルベルトが立ち止まる。
振り返ってみると……。
「ごっ、ごめんなさい。
コップを洗おうと思って……」
気まずそうな顔でコップを持つソフィアがいた。




