159 可愛く思えて仕方がない
「ただいまー」
俺たちは街のはずれにある仮住まいの小屋へと帰って来た。
宿をずっと利用し続けるのはコスパが悪いと思った俺は、早々に新しい定住先を確保。誰も利用していない小屋があったので、持ち主にお願いして安く借りることに成功。
当面はここに住む予定だ。
小屋と言ってもそれなりに広く、6人が生活するのに十分なスペースがある。
一人用の個室などはなく男女で寝室が分かれているだけ。寝る時以外は全員が同じスペースで過ごしている。
まぁ、これでも一部屋で全員一緒に泊まるよりはいいだろう。
少なくとも男女で部屋が分かれるわけだし。
「おお、お帰り。遅かったな」
薪を割っていたアルベルトが、手拭いで汗をぬぐいながら声をかけて来た。
「すみません、色々とありまして」
「そうか、頑張れよ。俺も仕事を頑張るぞ」
そう言って斧を両手で握り、薪割りを再開するアルベルト。
ここ数日でようやく働き始めた。
屋敷を追い出された当初は完全なニートと化していたアルベルトだが、今は生活のために頑張って働いている。
と言っても、薪を割ったり、庭の畑を耕したりと、力仕事しかしていないが。
「お帰りなさい! ウィルフレッドさん!」
洗濯を干していたマイスが手を振って迎え入れてくれた。
今日は学校を休んで仕事を手伝っているらしい。
雲一つない青天の空の下。
風にたなびく洗濯物が気持ち良い。
「ただいま。洗濯お疲れさま」
「えへへ……ありがとうございます」
照れくさそうに笑うマイス。
彼女は制服ではなく、ゆったりとしたワンピースを着ている。
お嬢様っぽくなくてちょっと新鮮。
「冒険者のお仕事は続けられそうですか?」
「それが……」
俺はマイスに冒険者ギルドの状況を話した。
「そんな……廃業だなんて……」
「でも、ダンジョン攻略を諦めたわけじゃないぞ。
とりあえず学校へ行って情報を集めてみようと思う。
生徒会のメンバーがいなくなったから、
別のパーティーが攻略に乗り出すと思うんだ」
「え? 生徒会の方々がダンジョンを?」
どうやらマイスは知らなかったらしい。
この様子だと他の生徒たちも、生徒会が普段から何をしていたのか把握してなさそうだな。
「ああ、ここ最近はずっと、生徒会のメンバーだけで、
ダンジョン攻略の依頼を一手に引き受けていたらしい」
「それは存じませんでしたわ。
そう言えば……生徒会の方々が失踪されて、
選挙が行われることになりました。
立候補しないかと私も声をかけられたのですが……」
選挙?
ああ……例のお約束イベントが英雄学校でもあるのか。
どうやら生徒会選挙が行われるらしい。
マイスもそのイベントに巻き込まれたってことか。
「わたくしを生徒会長に推す声があるようで、
英雄科の方々から立候補を勧められましたわ。
でも……おうちでの仕事もありますし、
どうしようかと迷っていたところでして……」
マイスは洗濯や掃除など、ソフィアと一緒に色々と頑張ってくれている。
確かに助かってはいるのだが……。
「家事ならみんなで何とかすればいいから、
マイスは今やるべきことを頑張ればいいと思うよ。
生徒会選挙に立候補するつもりがあるのなら、
是非とも挑戦した方がいい。
それに……俺もマイスを応援したい」
「ウィルフレッドさん……嬉しいです」
俺の言葉にウットリした様子でほほ笑むマイス。
なんか最近、彼女が可愛く思えて仕方がない。
洗濯や掃除などの仕事をしている姿を見ていると、ドキドキしてしまう。
後ろから抱きしめたいなんて思ったこともある。
今まではお互いにある程度、距離を置いて接していた。
しかし……同じ屋根の下での生活が始まり、彼女の姿を間近で見るようになって、今まで気づかなかった魅力に気づけたのだ。
こんなカワイイ女の子が俺を好きだなんて、奇跡と言ってもいいだろう。素直にこの幸せを噛み締めたいのだが、今の俺はちょっと複雑な気分。
本来であれば、彼女はウィルフレッドと結ばれるはずだった。
しかし、今の俺はウィルフレッドの皮を被った小日向聡である。
まったくの別人なのだ。
それはマイスもよく分かっていると思うのだが……。
「ウィルフレッドさんが応援してくれるのなら……。
わたくし、頑張ってみようと思いますわ!
ありがとうございます!」
そう言って俺の手を取り、ぴょんぴょんと跳ねて無邪気に喜ぶマイス。
彼女の乳がぶるんと揺れた。
ダメだ……可愛すぎる。




