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157 勝てるところが一つもない

 バートンによると、桧山が現れてから急激に冒険者ギルドに寄せられる仕事が減ったという。

 生徒会と一部のエリートたちだけでダンジョン攻略に挑み、数日で攻略してしまうようになったらしい。


 ダンジョンは複数の階層に分かれている。

 一般冒険者たちは慎重にマッピングを行いながら、出現するモンスターを観察して生態を分析。仕掛けられたトラップを一つずつ解除しながら、何日もかけて着実に奥へ、奥へと進んでいく。


 対して桧山をはじめとする英雄学校のエリートたちは、強力なスキルで全てを蹂躙しながら一気に進撃。

 あっという間に最深部まで到達し、ダンジョンのボスを数秒で撃破。

 攻略にほとんど時間をかけない。


 冒険者たちと英雄学校の生徒たちとでは、攻略達成にかかる費用が異なる。

 言うまでもなく冒険者ギルドよりも英雄学校に依頼した方がはるかに安く済む。


 基本的にダンジョン潰しの依頼は地方の村や町から寄せられることが多いが、大して裕福でもない街の人たちがお金を出し合って依頼を出すので、捻出できる費用も限られている。

 また、街を統括する役人が直接依頼を寄せることもあるが、こちらも余計な出費は抑えたいと思うはず。


 そうなると当然、依頼はギルドではなく英雄学校へと寄せられるようになる。

 魔物の討伐依頼に関しても同様である。


「俺たちの仕事はヒヤマをはじめとする、

 英雄学校の連中に全て奪われてしまった。

 それもこれも、あのヒヤマが悪い。

 全部ヒヤマのせいだ!」


 歯を食いしばって怨嗟の声を漏らすバートン。

 桧山の奴、相当嫌われてるな。


「でも……冒険者の仕事はダンジョン攻略だけではないでしょう?」

「ああ、傭兵の仕事とかもあったな。

 あと要人の警護とか、臨時の警備兵の依頼とか。

 それも全部取られちまったよ。

 傭兵科の生徒の方が強いし、安く使えるし、

 おまけに素直なんだってよ。

 へっ!」


 忌々しく吐き捨てるバートン。

 傭兵科の生徒は冒険者たちよりもはるかに使い勝手がよく戦闘能力も上。ソフィアにボコボコにされていた彼らだが、決してただの雑魚ではなかったようだ。


 冒険者ギルドが英雄学校に勝てるところが一つもない。


「あのクソガキどもは人が飢えてるなんて知らずに、

 小遣い稼ぎで仕事を奪っていきやがる。

 俺たちにとって連中は敵だ。

 悪魔よりもたちが悪い」

「「…………」」


 悔しそうに話すバートンに、俺たちは何も言えなくなってしまう。


 完全に詰んでるぞ、これ。

 全ての仕事を奪われ、何もできずに廃業してしまったギルド。

 置いてきぼりにされた元冒険者たち。


 彼らに明日などない。


「あっ、でもそのヒヤマって、

 最近は姿を見せていないみたいですよ。

 ここ最近は状況が変わったんじゃないですか?」


 俺が言うと、バートンは力なく首を横に振った。


「ヒヤマが消えた後も、他のメンツで攻略してたみたいだ。

 なんて言ったっけな……エミリー?

 とかいう副会長がやたら強くてな。

 生徒会の4人だけでダンジョンを攻略してたらしい」


 ああ……コルドか。

 あいつも桧山と同様に、遠慮なくダンジョンを潰して回っていたのか。


 確かに、奴の能力であれば魔物相手に無双できるだろう。

 実際に目の前でレイブンを瞬殺して見せたからな。


 他のメンバーのスキルもそれなりに使える。

 特にキースの索敵能力なんて、ダンジョン攻略にはもってこいだな。

 エイダの光の能力も強力だ。


 ゴッツは……まぁ、あいつは荷物運びとかだろうな。


 コルドをはじめとする生徒会のメンバーは、少人数でいくつもダンジョンを攻略していたようだ。少なくとも、桧山が不在になったあとも、冒険者ギルドに仕事が回って来ることはなかった。


 と言うことは……。


「副会長と生徒会のメンバーが消えた今、

 冒険者ギルドを復活させる、よい機会かもしれませんね」


 バートンには聞こえないよう、ファムが俺の耳元でささやく。


 彼女の言う通り、冒険者ギルドを復活させて経営側に回れば、地道に働くのが馬鹿らしくなるほど儲けられるだろう。


 しかし……。


「副会長がいなくなっても英雄学校には大勢の生徒がいる。

 また別の奴が依頼を受けるんじゃないのか?」

「そうでしょうね。

 ですが……このチャンスを黙って見逃す手はありません。

 どうかご一考を」

「ううむ……」


 ファムは冒険者ギルドの復活を強く推している。

 確かに魅力がないわけではないのだが……。


「おい、さっきからヒソヒソ何を話してるんだ?」


 バートンが俺たちを睨みつける。


 こんな連中が役に立つとは、とても思えないんだよな。

 今はまだ。

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