155 冒険者ギルドへようこそ
屋敷から追い出されたフォートン家!
実家から追放されたマイス!
メインキャラ揃ってホームレス!
主人公のウィルフレッドは家族と元婚約者を養うために仕事を探すことになった!
ファムの勧めで冒険者として働くことを決めた彼はギルドへと向かう。
果たしてどうなる⁉
冒険者ギルドには大勢の人がいた。
中年の男性たちが昼間っから酒をあおっている。
うーむ……これが冒険者ギルド。
むさくるしいな。
見事におっさんしかいない。
「なぁ……なんで皆、酒なんか飲んでるんだ?
ここって仕事を斡旋する場所だろ?」
「ええ、ギルドは仕事の依頼を受ける以外にも、
食事や寝床を提供する役割があるのです。
冒険者たちの大抵はここで生活しています」
「へぇ……」
職安以外にも、宿泊施設と飲食店も兼ねているのか。
色々と便利だな。
所属する冒険者が沢山いれば、それだけ儲けも増える。
考えようによってはかなりおいしい事業かもしれない。
「なぁ……冒険者ギルドって、ここだけだよな?」
「ええ、そうですが」
「他にはないのか?」
「このギルドで仕事をするのは嫌だとでも?
どこへ行っても似たような雰囲気ですよ」
「いや、そう言うことじゃなく……」
別にこのギルドが嫌なわけじゃない。
俺はある疑問を抱いた。
どうして街にギルドが一つしかないのか、という疑問。
冒険者を集めて仕事を斡旋するだけで儲けが出るボロい商売。
仕事を斡旋して手数料を取れば、事業者はノーリスクで儲けられる。
食事と酒が提供され、なおかつ宿泊施設としての機能も兼ね備えており、利用する側にとっては非常に便利。
冒険者ギルドってのは実に素晴らしい商材だと思う。
だからこそ思う。
何でこんなおいしい商材なのに、誰も進んでやろうとしないのか。
冒険者ギルドはこの街に、ここ一つしかないらしい。
乱立するくらい沢山あってもいいと思うんだけどな。
「もし冒険者が仕事中に死んでも、
ギルドは責任を取らなくていいんだよな?」
「はい、怪我や事故の保証をするギルドなんて、
今までに聞いたことがありません」
やっぱり。
この世界には保険制度なるもが存在しない。
いや、もしかしたらあるのかもしれないが、冒険者の職に就くようなやつに保険制度なんて縁がないだろう。
宵越しの金は持たないとかマジで言っちゃう連中みたいだし。刹那的な快楽を求めるその日暮らしの奴等に、将来のこととか考えさせるのは無理。
万が一冒険者たちが仕事中に重傷を負ってしまっても、事業者は一切責任を取らなくていいのだ。
なおさら不思議に思う。
どうして誰も経営しようとしないのか。
「他にギルドを開業しようとする人はいないのか?」
「冒険者ギルドを経営するには強さが求められます。
相応の実力がなければ相手にもされません」
実績が無いとダメなのか。
なるほど……そう言うことなら、かなり絞られるな。
一般人が冒険者ギルドを開業するのは難しい。
「……あっ」
ファムが何かを見つける。
吸い寄せられるように歩いて行った先には、何も貼り付けられていないコルクボードが壁にかけてあった。
「どうしたんだよ、ファム?
ボードなんか眺めて」
「おかしいですね……依頼書が一枚も貼られていない」
「依頼書?」
「仕事の内容を記載した書類です。
冒険者は依頼書を受け取って仕事へ向かいます。
その依頼書が一枚もないとなると……」
「仕事がないって状況なのか?」
「ええ……そうなりますね」
へぇ、仕事がない。
平和な世の中ってことなのか?
いや、それはないな。
レイブンって魔物が普通に襲ってきたし、学校に討伐依頼が寄せられたとダルトンが言っていた。
つまり仕事がないわけではないのだ。
「おかしいですね……受付へ行って確認します」
「えっと、受付って?」
「あそこで……あっ」
ファムはまた何か見つけた……いや、見つけられなかった。
彼女が歩いて行った先には受付カウンターがあった。
ほとんどスカスカの棚に古びたノートが並んでいる。カウンターにはさび付いた呼び鈴がひっそりと置いてあった。
もちろん、そこには誰もいない。
そう……誰もいないのだ。
ギルドで仕事を斡旋するスタッフが。
一人も。
「どっ……どういうことだよ?」
「私にも分かりません……いったいどうして……」
ファムが珍しく困惑している。
二人してオロオロしていると、体躯の大きなスキンヘッドのおっさんが話しかけてきた。
「ガキと女が二人してここに何の用だ?」
「冒険者の登録に……」
「はっ!」
ファムが言いかけると、禿は鼻で笑ってあしらう。
「冒険者ギルドなんてのは、とっくになくなってるよ!
ここは元冒険者のたまり場になってるただの廃墟だ。
いくら待っても仕事なんて一つもきやしねぇ」
「「ええっ……」」
おっさんの言葉に絶句する俺とファム。
どうすんの、これ?




