154 嘘つきは死んでも治らない
死後の世界があるかどうか、俺は知らない。
しかし、これが死後の世界というのなら、そうなのだろう。
「ねぇねぇ、ウィルさま。
一人で何をぼーっと考えてるの?」
心配そうにソフィアが尋ねてくる。
フォートン家を追い出され、路頭に迷った俺たちは安い宿を転々として生活している。そろそろちゃんとした住処を見つけないと、すぐに所持金が底をついてしまう。
「いやぁ……これからどうしようかなぁって思ってさ」
「大丈夫だよ、きっとなんとかなる!」
笑顔でソフィアが言う。
俺もなんとかなるような気がしてきた。
前世でビルの屋上から飛び降りた俺は、それ以降の記憶がない。
ぼんやりと高橋が煙草をふかす姿を見たような気がしたが、一瞬だけだ。
結局俺は何も手にできないまま、無残に自分の人生を終えてしまった。
転落して意識が途絶えたあとフォートン家のお屋敷で目を覚ましたので、間に何が起こっていたのか記憶にない。
気づいたら俺は小日向聡からウィルフレッド・フォートンへと転生していたのだ。
「ウィルフレッドさーん! ソフィア!
こっちにおいしそうな果物が売ってますよー!」
遠くからマイスが手を振って呼びかけている。
実家を追放されたというのに呑気なものだ。
俺はウィルフレッドとして生きているが、今の状況に満足している。
フォートン家が屋敷を追い出され路頭に迷い、ソフィアが人間兵器として使い捨てにされる現実は何も変わっていないが、こんな状況でさえ楽しいと思えてしまう。
なんでだろうなぁ?
前世で散々な思いをしたからか、どんな状況でも不安を感じずに生きていられるのだ。
我ながらおかしな精神構造をしていると思う。
作り上げた虚構を高橋の手によって暴かれ、無残に命を散らした俺だが、少し焦りすぎたと反省している。
やはりもう少し慎重になるべきだった。
『顧客』に執着すべきでなかった。
これが一番の敗因だろう。
嘘で人を欺いていた俺が、あろうことか他人を信じて、自分について来てくれると思い込んでしまった。
組織が工作員を紛れ込ませる可能性だって、冷静になればすぐに気づけたはずなのに。
俺は自分の見極めの甘さを悔いて、同じ失敗を繰り返さないよう誓う。
もう二度と手放しで人を信用したりしない。
「ほらソフィア、見てごらんなさい。
こんなに大きくて美味しそうなモーモーの実を」
「こっちのカッキーフルーツもおいしそうだよ!」
果物を手に取って見せ合い、楽し気に買い物を楽しむ二人。
住む場所もないこんな状況だけど、二人がいれば幸せだ。
「ウィルさまも、こっちへ来てよぉ!」
「ウィルフレッドさぁん!」
「分かったよ、今行く」
求めに応じて二人の元へ。
前世とは何の関係もない世界に転生してしまったが、こちらではもっと上手くやれるはずだ。
俺はこれからも嘘をつき続ける。
幸せで、愛にあふれた、幸福のための嘘を。




